イスラエル人はインドが大好き
イスラエル人、特に若者はインドが大好きである。インド各地で頻繁にイスラエルの若者に出会う。彼らによると理由は①インドは緑豊かで山も海もある、②いわゆる“葉っぱ”を吸ってビールを飲んでリラックスできる、③航空運賃が安いこと(『「Youは何しにインドへ」、インドで聞くイスラエル問題』参照)。
いかに多数のイスラエル人がインド旅行しているか明白に物語るのがインド各地の観光地のレストランで見かける「イスラエル料理あります」の看板である。しばしばヘブライ語でも表記されている。
今回の南インド旅はイスラエルがガザに侵攻して1年数カ月が経過した時期であったのでイスラエル人が何を考えているか、より本音に近い切実な声を聞くことができたように思う。
国民皆兵国家イスラエルの兵役と年金生活
10月18日。ゴアのカフェ兼食堂で会ったカップルは30代半ばの温和な落ち着いた感じであった。男性は元バスケットボール選手だったが怪我で選手生活を断念。リハビリ中に勉強して精神セラピストになったという経歴。女性はスマホなどに使われるアプリのマーケティングをしている。二人とも仕事に追われる生活であり将来の年金生活を非常に楽しみにしていた。
イスラエルの年金制度は充実しており日本と異なり引退後の生活資金の心配は不要のようだ。年金支給開始は男性が66~67歳から、女性は64歳からで兵役の関係で男性は開始時期がずれるらしい。兵役は通常18歳からで男子3年、女子2年。イスラエルは世界でも珍しい女子も全員兵役義務がある国民皆兵国家なのだ。兵役が終わるとボーナスが支給され大半の若者は海外旅行をエンジョイするという。そのあと大学進学か就職という進路を選択するのが一般的らしい。
ガザ侵攻という戦争状態が1年以上続いてもイスラエル経済は大丈夫!
2023年10月からハマス壊滅を目標にガザ地区侵攻を継続し、さらにヒスボラ弱体化を狙いレバノンにも侵攻した。筆者はこうした軍事行動に伴う戦費負担がイスラエル経済を圧迫して国民生活が苦しくなっているのではないかと懸念した。ところが意外なことにカップルによるとむしろ戦時需用により経済は活況を呈しているという。軍需関連の雇用増で若者の失業問題も解消。インフレも3.8%程度でさほど深刻ではないようだ。イスラエルの輸出の40%はハイテク関連だが雇用の9%を占めるに過ぎないという産業構造らしい。
そのため国民は生活が窮乏しているとは感じていない。もちろん米国が軍事支援はじめ多大な援助をしているという背景があることは2人も認めたが。
困った問題としては、ほぼ全ての外国の航空会社がイスラエルへのフライトを停止したので生鮮野菜などの輸入が減り、イスラエルの航空会社の運賃も上昇。このためカップルは日本への旅行を断念してインドに変更したという。

イスラエル内部での不公平是正を望む声
戦争状態が長期化するなかで兵士の犠牲や人質の安否を気遣って停戦を求める一般国民の声もあるが、他方でガザのハマス、レバノンのヒスボラなど反イスラエル勢力を絶滅させるまで攻撃を継続するべきという強硬派の大きな声にかき消されているとカップルは懸念した。
強硬派の中核はユダヤ教の宗教指導者、そしてユダヤ教超正統派(Ultra Orthodox)の人々であるという。ユダヤ教超正統派とは髭やもみあげをのばし黒いハットを被り黒の上下の服装をした人々であると解説してくれた。彼らは政府から毎月生活費を支給され、しかも兵役まで免除されている。超正統派は決して少数派ではなく国民の10%以上を占めているという。≪参考≫最新統計では超正統派は13%という数字もある。
なぜ彼らがかくも優遇されているのか。彼らは宗派の教えに従い世俗の仕事に就かずユダヤ教を学び研究することに一生を捧げている。そして彼らが組織する超保守系政党は現在のネタニヤフ連立政権を支えており政府も超正統派の声を尊重せざるを得ないという。
カップルはこうしたイスラエル国家に内在する理不尽な不公平を痛烈に批判した。超正統派は子供を増やすことを重要な義務としており平均出生率が6~7人という子沢山なので超正統派の人口増加は加速しているので放置できないという。
ネットニュースで調べたら2024年7月に最高裁で超正統派への兵役免除は違憲と判断されたが、ネタニヤフ政権は連立政権維持のため対応を先延ばししているようだ。