過半数割れでもヒンズー至上主義のインド人民党を熱烈に支持する人々

2024年4月~6月のインド総選挙の結果、過去10年間破竹の勢いであったモディ―首相率いるインド人民党(BJP)の独走態勢にインド民主主義は待ったをかけた格好となった。前回の2019年の総選挙ではBJPは300議席を超えたが、今回は60議席減らして連立与党による政権維持を余儀なくされた。
2019年の総選挙の後、西インド・中央インドを歩いたが当時は熱烈なBJP支持者の若者の自信に満ちた声を数多く聞いた。(『ヒンズー至上主義とIT技術でインドは超大国になるのか』参照)
今回の南インド旅でも選挙で過半数割れとなったBJPを率いるモディ首相を根強く支持する声を数多く聞いた。やはりヒンズー・ファーストには根強い岩盤支持層があるようだ。
10月12日。1947年創業のムンバイのホステルは老朽化したビルの3階・4階にあった。現在のオーナーは3代目。初代の祖父は米国で長らく働いて資金を貯めて創業。オーナー氏はモディ首相の熱烈な支持者でパキスタンとイスラム教徒をテロリストとして否定する典型的なヒンズー至上主義者だった。
10月16日。ゴアのホステルの40代のマネージャーはバンガロール出身。中国の脅威に対抗するには“強いインド”であることが必須であり、ヒンズー至上主義の下でモディ首相が強い指導力を発揮することを期待。中国はチベットを占領して周辺国のパキスタン、ネパール、バングラディッシュ、ミャンマーさらにはスリランカ、モルジブにも影響力を浸透。パキスタン人はイスラム教学校“マドラッサ”で洗脳教育を受けているのでパキスタンはテロリストの温床と断言。
10月23日。ハンピのゲストハウスの40代の男性オーナーは国民会議派を批判。有力なリーダーであるラーフル・ガンディーはガンディー・ファミリー出身というだけで政治家の資質がない。国民会議派はインド独立以来イスラム教徒など非ヒンズーとの協調を重視してヒンズーを軽視した。社会主義的経済を続け外資参入を阻みインド経済を停滞させたと痛烈に批判。就任後10年間でインド経済を急速に発展させたモディ首相の実績を手放しで賞賛した。
インド社会の分断を懸念する『ヒンズー至上主義への批判』
10月24日。ムンバイ近郊のプネ出身のIT技術者の若者は、行き過ぎたヒンズー至上主義はインド社会の分断を生むと懸念。インドの人口の20%は、非ヒンズー教徒であり、人口の半分近くがイスラム教徒という地域もある。ヒンズー至上主義は、多数派のヒンズー教徒に対する求心力にはなるが、非ヒンズーの人々を排除すれば、インド社会が分断して弱体化すると懸念した。
彼と同様の意見は何人もの人から聞いたので総選挙でBJPが過半数割れとなったのも頷けた。
IT企業の若手経営者が語る起業家の現実とモディ政権批判
10月27日。ムンバイ在住の32歳の従業員約30人のIT企業の経営者。法人税率30%、従業員給与20%、自分の報酬10%。利潤の40%は政府に徴収されており税負担が過重と批判。さらにGST(消費税)が12%に引き上げられインフレも激しいとモディ政権の経済運営を批判。
彼は国民会議派支持者。国民会議派が社会主義的経済政策を続け、外資導入を規制したため、インド経済が長期に停滞低迷していたことを筆者が指摘すると「国民会議派は様々な中少数政党・諸派の寄り合い所帯なので、政権基盤が弱く思い切った外資導入政策は取れなかった。モディ首相はヒンズー至上主義により、政権基盤を固めることができたので、外資導入など急進的政策で経済成長を実現した。しかし経済成長の恩恵は一部の金持ちに偏りインド社会では“貧富の格差が拡大”」と指摘。