2025年3月20日(木)

BBC News

2025年3月17日

エルサルバドルに移送され航空機から降ろされた人(中央)

米政府は16日、ギャング組織のメンバーとされる南米ヴェネズエラ人200人以上を、中米エルサルバドルの厳重警備の刑務所に国外追放したと発表した。この措置に対しては、米連邦地裁が差し止めを命じていた。

エルサルバドルのナジブ・ブケレ大統領は、ヴェネズエラのギャング組織「トレン・デ・アラグア」のメンバー238人が16日朝、エルサルバドルに着いたとソーシャルメディアに書き込んだ。国際ギャング組織「MS-13」のメンバー23人も一緒だとした。

一方、米政府高官も、15日に261人を国外追放したと、BBCがアメリカで提携するCBSニュースに話した。うち137人はギャング組織との関係が疑われており、「敵性外国人法」に基づいて追放したという。

アメリカもエルサルバドルも、追放された人々の身元や、犯したとされる犯罪、ギャング組織との関わりなどを明らかにしていない。

アメリカのドナルド・トランプ大統領は15日、「トレン・デ・アラグア」について、「米領土に対する略奪的侵略を実行し、試み、脅している」と主張。1798年制定の「敵性外国人法」を適用する布告に署名したと発表した。

そして、同組織のメンバーらをアメリカに対する「不規則な戦争」への関与をめぐって、国外追放するとした。

「敵性外国人法」が適用されるのは、第2次世界大戦中に日系アメリカ人の強制収容以来だという。

これに対し、首都ワシントンの連邦地裁のジェイムズ・ボウスバーグ判事は15日夜、トランプ氏の布告を受けた国外追放を14日間停止するよう命令。さらなる法的議論が必要だとした。

米メディアによると、国外追放のための航空機はすでに離陸したと司法省の弁護士らから知らされた判事は、同機の引き返しを口頭で命じたという。

このことについて、エルサルバドルのブケレ大統領はソーシャルメディアに、「おっと……遅すぎた」と投稿。手足を器具で拘束された人々が、武装した職員によって次々と航空機から連行される様子の動画も投稿した。ブケレ氏は、トランプ氏と盟友関係にある。

ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官は、「政権が裁判所の命令に『従うのを拒んだ』わけではない」と主張。「この命令は合法的根拠がなく、テロリストであるTdA(トレン・デ・アラグア)の外国人がすでに米領土から排除された後に出された」と述べた。

国外追放に反対して、トランプ政権を相手に訴訟に関わってきた米自由人権協会(ACLU)は、同政権が裁判所の命令に違反した可能性があるとしている。

アメリカでは、政府機関は連邦裁判所の決定に従うことになっている。そのため、今回のケースは憲法上の問題を提起している。

ヴェネズエラ政府は、トランプ氏が「敵性外国人法」を適用したことを批判。「ヴェネズエラ人の移住を不当に犯罪化」するものであり、「奴隷制からナチスの強制収容所の恐怖に至るまで、人類史における暗黒のエピソードを想起させる」としている。

人権団体アムネスティ・インターナショナルUSAは、今回の国外追放を、「トランプ政権による人種差別的な狙い撃ちの新たな例」だとXで批判。ヴェネズエラ人らを「ギャングに所属していると、ひとまとめにしている」と声明で述べた。

エルサルバドルのブケレ大統領は、同国に移送された人々が悪名高い巨大刑務所、テロ監禁センター(CECOT)に直ちに移されたと発表した。そこに「1年間」収容され、期間は「更新」される可能性があるという。

新たにつくられた厳重警戒の刑務所CECOTは、最大4万人収容できる。人権団体からは、受刑者らがここで不当な扱いを受けていると非難されている。

今回の措置は、アメリカとエルサルバドルの最近の外交関係の強化を示すものとなっている。エルサルバドルは、マルコ・ルビオ米国務長官が就任から2番目に訪れた国だった。

2月のルビオ氏訪問の際、ブケレ大統領は、アメリカが国外追放する人々の受け入れを提案。巨大なCECOTにかかる費用の一部が、それによってカバーされることになると述べた。

トランプ氏は昨年の大統領選挙で、米史上最大の違法移民らの国外追放作戦を実施すると公約し、有権者の支持を得た。

今年1月には、「トレン・デ・アラグア」と「MS-13」を外国テロ組織に指定する大統領令に署名した。

(英語記事 US deports hundreds of Venezuelans despite court order

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cr5211p28e8o


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