2025年4月15日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年3月19日

 BRICSの概念を提唱した元ゴールドマン・サックス会長で元英国財務大臣のジム・オニールが、2025年2月24日付のProject Syndicateで、トランプが関税措置を政策手段とすることで、世界各国は米国市場を離れ、結局米国は孤立し米国の消費者が敗者となると論じている。

(KanawatTH/gettyimages・dvids)

 第2次トランプ政権が発足してまだ日が浅いが、「米国を再び偉大にする」とは一体何なのか。この国は最も基本的な経済指標で判断すれば既に偉大なのだ。世界の国内総生産(GDP)の 15%~26%を占め、その経済規模は主要7カ国(G7)の他の国々を合わせたよりも大きい。人口は中国やインドの4分の1だが、経済規模は両国を凌駕している。

 とはいえ、米国は他国に比較し国内貯蓄率が恐ろしく低く、所得と富の不平等が著しい。もし米国をより偉大な国にするというなら、財政状況を改善し、特に貧困層の所得を幅広く増加させ、より包摂な成長を達成する必要があろう。

 米国経済の動向は、その重要性から、世界中に影響を及ぼしてきた。他の国々は、米国の3つの重要な特徴を当然視してきた。まず、莫大な国防費、次に、戦後のルールに基づく国際秩序における中心的地位、そして巨大な消費需要である。

 2024年末、個人消費は米国GDPの68%を占めるが、世界の財の消費に占める米国のシェアは、世界 GDP に占める米国のシェアを大きく上回っている。そして、世界の国々は、米国経済のこの側面を前提としてきた。

 トランプとその側近は、米国の主要貿易相手国に対して関税引き上げの脅しをかけ続けて、米国への輸入全体を減らすことが、物価上昇を通じて、または、米国の貯蓄率を上げざるを得ないことで、米国の消費者に害を及ぼすという事実にも平然としているように見える。米国は世界の GDPの15~26%を占めているとはいえ、それ以外の世界経済はその3~5.5倍はあり、他の国々が米国の消費者に頼ることなく、多角化すれば良いと考えることは容易に想像できる。

 新たな加盟国を加えたBRICSが突然象徴的な首脳会議を開催する以上のことを決めたとしたらどうだろう。中国が「一帯一路」参加国に、低関税またはゼロ関税の貿易と投資を提供すれば、人口が米国の4倍であるインドと共に、米国を排除した世界貿易を爆発的に拡大する可能性さえある。

 同様に、ドイツ新政府が、自己規制の「債務ブレーキ」が足かせであることに気付くことも想像できる。英国の労働党政権の様に、国内のインフラ整備や国防費のために、より多くの借金を許容することもできる。そして、欧州債券市場を発展させるというフランスの提案を再検討うること、或いは欧州単一市場をすべての商品とサービスに拡大することに本腰を入れること等が想像できる。


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