2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年3月19日

 特に、留意したいのは、米国・EU関係の冷却化やドイツ等が大胆な資金調達に舵を切る可能性が、米国市場から排除されつつある中国に大きなチャンスをもたらし、EUと中国が経済面で接近する可能性が高まることである。昨年、習近平が訪問したハンガリー、セルビアでは中国企業による大規模投資が進み、中国との経済関係活性化に熱心なスペインにはリチウム電池生産の投資が実現している。

 また、昨年12月、中国のEV車に45%の相殺関税を決定したEUのフォン・デア・ライエン委員長は、最近中国との新たな協議を呼び掛けていると報じられている。そのようなEU・中国の経済関係が緊密化すれば、これがアジアにおける地政学的問題にも影響することが懸念される。

すべてが見通し通りにいかない

 とはいっても、このような世界の米国市場離れが直ちに実現していくとも思えない。一方で、トランプは言ったことをすべて実行するわけではなく、関税措置の弊害が具体的に認識されれば、方針を変え、実施を延期し或いは追加関税の規模や対象を象徴的なレベルに留めて成果があったと言い張るかもしれない。

 他方で、米国離れを目指す諸国にとっても、そう簡単に米国市場を代替する市場が見つかる訳ではなく、中国との関係でEU諸国が一致した対応を取れるか否か、BRICSが簡単に足並みを揃えられるかも疑問である。英国・インド関係もそうスムーズには進まないであろう。

 いずれにしても、トランプの下での米国の対応の不確実性があまりにも高く、諸国の貿易パートナー多角化の動きは進むであろう。日本としても、このような動きの中で、トランプ関税の標的となることを避けつつ各国の米国市場離れの動向やその影響に留意し、必要に応じ米国側にも注意を喚起し、今後経済が活性化する地域があることを念頭に、例えばメルコスールとの経済連携協定(EPA)の可能性やインドとの更なる関係強化等にも意を用いるべきであろう。

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