2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年3月19日

 もしMAGAが究極的に、すべての国々の米国消費者への依存を断ち切る手助けになるのであれば、世界中の人々がトランプに感謝することになるだろう。唯一の敗者は普通の米国人である。

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中国にチャンスを与える可能性

 トランプの関税政策の不合理性やその悪影響を説く記事は多いが、この論説は米国の旺盛な消費需要に着目し、米国離れという世界経済に生ずる構造的な変化の観点からの批判であり、BRICSの重要性を予見した先見性に富むオニールならではの重みをもつ議論である。

 ウクライナ問題や関税措置等をめぐるトランプの言動は、トランプ個人のみならず国家としての米国に対する信頼を深刻に損ない、特にビジネス関係において不可欠な予測可能性を甚だしく害し、同盟国を含め各国企業は、米国との貿易や投資に慎重にならざるを得ない状況である。

 メキシコおよびカナダに対する25%関税の実行が注目されるが、この措置を実行されれば、日本、韓国、欧州連合(EU)等からの輸入が増加する可能性もあり、トランプは4月2日から対象国を明示せずに実施を検討している自動車、半導体、医薬品に対する25%の追加関税或いは相互関税と合わせて検討するのかもしれない。いずれにせよ、世界の鉄鋼、アルミへの25%の追加関税措置と合わせ、これらがそのまま実施されれば、トランプが望むように輸入は相当減少するだろうが、報復関税を招き、サプライチェーンの停止による経済の混乱やインフレを招くことになるだろう。

 政治面では、トランプ政権は、これまでの国際秩序を覆し、ウクライナの安全保障を欧州に押し付け、リベラルな価値観を排斥し、大国間の打算と力による支配に向かっているようであり、特に欧州の民主主義政権との間に深い亀裂が生じつつある。経済面でも、いわゆる相互関税は主として EUを念頭に置いているようで、関税措置を柱とするトランプの対外経済政策によって、この溝は一層深くなることが予想される。

 関税措置の結果、貿易相手国の輸出先の多角化の動きにより、結果的に米国が孤立し米国の消費者が敗者となるとのこの論説の結論については、その方向性はその通りかもしれない。BRICS 内の連帯が強化され、EUの米国離れを促進し、また、英国は、BREXITの際に構想されていたインドとの経済的パートナーシップの強化を改めて重視することや、昨年、合意されたがEU側の批准の見通しが立っていないEU・メルコスール自由貿易協定(FTA)も新たな意味合いを持つ可能性が予見される。


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