国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状(3月7日付)が発行されていたフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ前大統領が3月11日に逮捕され、即日、ICCがあるオランダのハーグに送致された。フィリピン政府は逮捕状執行のため、ドゥテルテの地盤ミンダナオ島ダバオを含め複数の帰国予想地に警察を配備していた。

ドゥテルテ前大統領は香港で政治集会に参加後にマニラへ帰国した際に逮捕された(AP/アフロ)
ドゥテルテは、滞在先の香港からマニラに帰国すると即座に拘束され、空軍基地で短時間の勾留後、政府がチャーターしたプライベート・ジェットに乗せられた。そして12日にオランダに到着し、早くも14日に予審準備が始まった。
逮捕容疑は、ドゥテルテがダバオ市長と大統領の在任中に陣頭指揮した麻薬犯罪撲滅作戦、いわゆる「麻薬戦争」の渦中で、超法規的殺人を容認・扇動・実行した「人道に対する罪」である。彼は長く務めたダバオ市長時代から治安回復を訴え、警察力だけでなく私的組織も用いて、麻薬犯罪に関連したと目される人々を殺害し、大統領への就任後は、これを国家レベルで実行してきた。しかし、中には麻薬犯罪と無関係であった者も多く含まれ、一連の超法規的殺害の被害者は、判明しているだけ6000人以上とされる。
そもそもフィリピンは、ドゥテルテ政権時の2019年に本件調査が契機となってICCから脱退しているが、今回の逮捕状執行について大統領府は、あくまでもICCの委託を受けた国際刑事警察機構(フィリピンも加入)の執行要請に国家警察が応じたもの、とする。だが逮捕・送致時の手際の良さを考えれば、現マルコス政権がICCの動きを利用して、対立の激化していた政敵ドゥテルテ一族と派閥を追い落とすため、機会を逃すまいとしていたことは明白である。