石油も食料も入ってこない……。シーレーン封鎖はわが国にとって致命傷だ。しかし、日本は〝総合的な〟安全保障が不在だという。どう備えるべきか? 「Wedge」2025年3月号に掲載されている「食料危機の正体 日本の農業はもっと強くできる」記事の内容を一部、限定公開いたします。
「戦争は銃で始まるが、決着をつけるのは常にパンである」
第二次世界大戦中の1943年、米国のフーバー元大統領はこう発言した。安全保障の根幹は、国民の生命と生活を守ることだ。そして、国民の胃袋を満たすことは、万国共通の重要課題である。
しかし、80年前、米国の飢餓作戦に屈した日本は、食料安全保障はおろか、総合的な安全保障戦略を立案しないまま、今日まで至っている。
島国である日本は、国内総生産(GDP)で500兆円規模の経済を回すエネルギーとカロリーベースで62%の食料を輸入しており、そのほぼ全てを海運業界に依存している。そして、エネルギー安全保障と食料安全保障は、結局のところ、海上交通路(シーレーン)の安全問題に帰着する。
ここ数十年で憂慮すべき事態は、台湾有事の発生懸念である。中国は台湾統一のために、台湾軍の屈伏を図るだろう。
まず想定されるのは、台湾周辺の海底ケーブルを切断し、政権中枢への情報を遮断することだ。その後、発電所やダムといった重要インフラや金融システムにサイバー攻撃を仕掛け、台湾全土を混乱に陥れる。現代版の「大空襲」である。
次の段階で狙われるのがシーレーンだ。台湾は日本と同様、海に囲まれており、エネルギーと食料の自給率が低い。中国は原油備蓄タンク、タンカーへのミサイル・ドローン攻撃や台湾周辺及び西太平洋での潜水艦攻撃、機雷の敷設など、シーレーンの封鎖により台湾の継戦能力を断つことが想定される。