2025年3月21日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年3月20日

 バイデン政権の国務次官補代理エリック・ジェイコブスタインが、2025年2月20日付のニューヨーク・タイムズ紙で、トランプはこの1カ月間に、中南米の歴史的同盟国を怒らせただけでなく、中国に大きな好機を与えていると指摘している。

(LorenzoT81/Esa Hiltula/gettyimages・dvids)

 ルビオ国務長官は今月、中南米5カ国を歴訪した際、西半球に対するトランプの新たなアプローチを「アメリカ大陸第一主義」の外交と喧伝しようとしたが、それはトランプの近視眼的外交によって台無しになり、中国に好機を作り出した。アルミニウムと鉄鋼への関税、北米近隣諸国に対する関税の脅し、対外援助の凍結、国外追放政策、不条理な領土主張等、トランプが脅しと最後通牒で近隣諸国を遠ざけようとする時、中国はその隙間に割って入る構えだ。

 過去25年以上、中国と中南米の経済関係は目覚ましい速度で発展してきた。2000年当時、中国は南米にとって第7位の輸出市場に過ぎなかったが、現在、中国は南米の主要貿易相手国となり、中南米全体でも米国に次ぐ第2位の貿易相手国となっている。

 中南米の対中輸出は、13年の1120億ドルから23年には約2080億ドルに急増した。同時に、中南米全域のインフラや政治的に有用な建築物に資金提供する中国のやり方は、非常に魅力的である。ただし、中南米における中国の建設プロジェクトは、現地の労働者の権利や環境基準を無視することが多い。

 トランプはこの1カ月間に、最も親密な歴史的同盟国を怒らせただけでなく、中国のために大きな好機を広げてしまった。メキシコとカナダに対する25%の関税案は、北米全域の消費者に打撃を与えるだけでなく、中国がこの地域でより信頼できる経済パートナーとして自国を宣伝する機会を作ることになる。

 23年、中南米に米国際開発庁と国務省から20億ドル以上の援助が行われたが、第二次トランプ政権の全面凍結方式は、近隣諸国に米国は信頼できないと映るだけでなく、米国の安全保障をも危険にさらす。米国の援助金は、グアテマラ、ホンジュラス等からの非正規移民や国際犯罪組織を抑制してきた。

 中南米諸国への移民送還は、トランプがコロンビアに対する関税とビザ発給禁止で脅したことで明らかになった。短期的には、コロンビアのように、報復を避けるためにトランプの要求を多くの国が受け入れ、トランプ政権は勝利を主張するだろう。しかし長期的には、政権の脅しが裏目に出て、長年の同盟国が米国以外の国との関係強化を模索することになるだろう。

 米国の国際開発金融公社(DFC)は、トランプ一期目中において議会によって設立され、発展途上国の民間部門のプロジェクトに投資しているが、中南米における累計融資額は、中国の開発銀行や中国企業が提供するものに比べ劣っている。トランプ政権と議会は、援助を凍結したり関税をさらに課したりする代わりに、中南米地域への米国の投資と援助を拡大すべきである。その両方が、結果的に米国の安全保障を強化することになる。


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