2025年2月7日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年1月28日

  米外交問題評議会ラテンアメリカ研究フェローのウィル・フリーマンが、1月3日付けフィナンシャル・タイムズ紙掲載の論説‘A new Monroe doctrine is unlikely to work for the US in South America’で、「トランプは、『モンロー・ドクトリン』(米国は地政学的な敵対勢力を西半球から締め出すという考え方)を繰り返し述べているが、米国は、中米諸国およびカリブ諸国には影響力を維持しているものの、今や南米の主要諸国にとって最大の貿易相手国、主要投資国は中国であり、米国が強硬策を取れば、一層中国寄りになる可能性がある」と警告している。要旨は次の通り。

(FoxysGraphic/gettyimages・dvids)

 トランプは、ラテンアメリカで増大する中国の影響力を後退させたいと考えている。そのためには強硬手段も辞さないだろう。

 しかし、圧力をかけて、ラテンアメリカ全体が同じような反応を示すことはない。イデオロギーよりも地理により分断され、北半分は米国との結びつきが強いが、南半分は圧力が強まれば中国に傾く可能性があることに備えておく必要がある。

 多くの人は、「米国が中国に対抗するためには、『鞭』ではなく、米国市場へのアクセス拡大やより豊富な開発資金といった『ニンジン』が必要」と考えている。彼らは正しい。

 米国の影響力はこの地域に均等に及んでいるわけではない。メキシコ、中米、カリブ海諸国では、米国は依然として強みを有している。例えば、メキシコの輸出の80%は米国向けである。

 しかし、南米に目を向ければ、状況は一変する。中国は南米大陸の最大の貿易相手国であり、ラテンアメリカ諸国のうち中国に最も債務を負っている国は5カ国ある。5カ国の内4カ国は南米にあり、中国の直接投資を最も多く受け入れている。南米の指導者たちは、米国に簡単におだてられ、丸め込まれるわけではない。

 南米の主要経済国は、米中どちらかの側を選ぶことに抵抗するだろう。圧力が強まっても、彼らが中国から距離を置くとは考えにくい。米国の圧力が裏目に出て、南米がさらに東方に振れれば、太平洋における安全保障、重要な鉱物やレアアースのサプライチェーンなどに影響が及ぶだろう。

 米国からの最大援助受け取り国の一つであったコロンビアは、圧力が裏目に出る危険性が最も高い国である。左派ペトロ大統領は、「一帯一路」やBRICS銀行へコロンビアを参加させると期待されている。任期はあと2年あり、内部制約もほとんどないがゆえに、米国からの強い圧力に反応して、ペトロの中国傾斜がさらに進み、米国は最も近い地域の同盟国を失う可能性がある。

 トランプと共和党の指導者たちは、「モンロー・ドクトリン」(米国は地政学的な敵対勢力を西半球から締め出すという考え方)について繰り返し語ってきた。しかし中国は、「ドクトリン」の最後のターゲットであったソ連とは違う。特に、南米における中国の存在感は、ソ連よりもはるかに大きい。


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