2022年12月6日(火)

WEDGE REPORT

2021年2月26日

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齋藤 純 (さいとう・じゅん)

日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所地域研究センター中東研究グループ副主任研究員

2014年一橋大学博士(経済学)。2006年アジア経済研究所入所、UAE大学客員研究員(アブダビ)などを経て15年より現職。専門は中東経済、開発金融、企業金融。

 サウジのムハンマド皇太子(当時は副皇太子)が16年に発表した「ビジョン2030」は、活気ある社会、盛況な経済、野心的な国家という目標を掲げ、ウムラ(メッカ小巡礼)の受け入れ許容者数を年間800万人から3000万人に増やす、平均寿命の74歳から80歳への延長、失業率の7%への低下、政府系ファンドの公的投資資金(PIF)資産の積み増し、非石油収入の増加など、明確な数値目標と具体的な戦略を明示したものであった。

 これらの改革の主要な資金源は、国有石油会社サウジアラムコの株式を一部上場して得た資金および海外からの直接投資だった。しかし、アラムコ新規株式上場による資金調達は、当初の目論見から外れつつある。「ビジョン2030」発表当時は株式の5%を公開することで1000億㌦以上の資金を調達できるとみられていたが、19年12月のサウジの証券取引所タダウルでの新規上場時には1.5%を公開し256億㌦の調達にとどまった。

 上場による資金はムハンマド皇太子が取締役会長を務めるPIFが運用し、ビジョン2030の重点分野に投資することが見込まれていた。報道によると、15年に400億㌦であったPIFの資産は20年までに4000億㌦に拡大したが、30年の資産目標1.9兆㌦が達成されるかは現時点では不透明である。

 また政府は「ビジョン2030」を推し進めるうえで海外直接投資の誘致を強く求めている。日本とサウジの間でも17年に「日・サウジ・ビジョン2030」が合意され、サウジ国内での経済特区の新設、自動車製造、製造業サプライチェーン構築などを主な目標とし、経済協力を図ってきた。20年12月の「バージョン2020」では、大規模給水パイプライン設備向け監視システムの納入、ブルーアンモニアによる脱炭素経済化支援、アニメなどのエンターテインメント分野における人材開発などが新たに加えられている。

 加えて、さらなる投資を呼び込むため紅海沿岸の大規模スマートシティ「NEOM」やリヤドのアブドラ国王金融地区(21年4月オープン)への外国企業の誘致を進めているものの、コロナ禍の影響もあり海外企業からの反応は鈍い。20年第2四半期のサウジ向け海外直接投資フローは9.5億㌦であり、16年の74.5億㌦、19年の45.6億㌦と比較しても伸び悩んでいる。

 なにより、湾岸アラブ諸国は、財源の大部分を石油収入に頼っているために原油価格の回復を強く望んでいる。カタールを除く各国の財政は、コロナ禍以前から赤字傾向にあったが、21年の財政赤字は対GDP比で5~16%に拡大すると予測されているためだ。

 だが、IMFによる21年の財政均衡石油価格(20年10月予測)は、天然ガス収入に依存するカタール(1バレル=38.1㌦)を除くと、UAEは66.5㌦、クウェートは65.7㌦、サウジは67.9㌦、バーレーンは83.4㌦、オマーンは109.5㌦となっており、現状の50㌦前後の原油価格を大きく上回る。付加価値税(VAT)や法人所得税の導入により非石油部門の収入は拡大しているものの、石油収入の大幅な縮小をカバーするほどにはいまだ至っていない。原油価格低迷が長期化する場合、各国が進める開発計画の大規模な変更を余儀なくされるだろう。

(出所) IMF資料等を基にウェッジ作成 写真を拡大

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