これまで部活動の強豪校といえば、いわゆる体育会系と呼ばれる徹底的な管理のもと、汗水を垂らした厳しい練習を積むことが常識だとされてきました。しかし、原監督のマネージメント術はその常識を180度覆すもので、選手の主体性を重んじ、内発的動機に働きかける方法論です。この革新的なメソッドは、陸上界だけでなく、他分野にも影響を与えるまでに至っています。そこには原監督独自の方法論があります。
陸上だけに留まらず、ビジネスや教育にも通じる原メソッド。原監督と「教えない授業」を実践する山本崇雄先生の共通点、それは学生や生徒の主体性を育て、自由と多様性を重視する考え方です。陸上界と教育界、それぞれの異端児として、教育やビジネスにも通ずる主体性の重要性、組織での振る舞いなどについて語ります。
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山本:原監督が主体性を大事にすることについて、ご自身の原初的な体験があったのでしょうか。
原:小学校1年生の時のことですが、海岸で遊んでいる時に防波堤から転落し、足を20針も縫う大怪我を負ったんです。その後、ギプスをつけて松葉杖生活を2カ月程度送ることになり、遊び回りたい盛りだったのに、思うように動き回れなくなってしまったんです。その経験で、自分の意思で自由に動けないことの虚しさを味わいました。この抑圧された感覚が、後々の管理教育に対する反骨精神や主体性を重視する姿勢につながっていたのかなと今振り返ると思いますね。
山本:実は僕も同じような経験があるんです。小学校2年の時、急性腎炎で2カ月ほど入院したんですね。退院後に登校すると、同級生たちはちょうど「九九」を習い終わったばかりで、私だけ毎日居残りさせられて無理やり覚えさせられたことがあったんです。でも、「何のために覚えるのか」という目的が分からないので、なかなか覚えらなかったんです。その結果、自己肯定感も下がってしまいました。このような抑圧された経験が、今の教育観につながる原点になっているのかなと感じますね。
「青トレ」の原点
目的を理解し、自走する選手の育成
原:我々の世代では、陸上部で腕立て、腹筋、背筋を30回3セットやらされるのが当たり前でした。でも、それが実際の競技にどう活きるのかまったく分からないまま、言われるがままにこなしていたんです。そこで、監督就任後、「どの筋肉をどう鍛えれば速く走ることに直結するのか」を選手たちに理解させるために、フィジカルトレーナーを招いて指導してもらうことにしたんです。それが「青トレ」と呼ばれるフィジカルトレーニングの普及活動につながったんです。
私からフィジカルトレーナーに1つだけお願いしました。「やり方を教えるのではなく、選手に目的を教えてください」と。何のためにこのトレーニングが必要なのか、この筋肉を動かすとどう体が反応するのかを選手自身が理解すれば、たとえトレーナーや指導者がいない時でも、選手たちで考えて練習できるようになります。こうして選手が自走する仕組みができていくんです。