韓国憲法裁判所は4月4日、非常戒厳宣布をめぐり弾劾訴追された尹錫悦大統領に対して、戒厳宣布は国家緊急権を乱用した重大な違反行為であると指摘し、大統領の罷免を言い渡した。これによって、昨年12月14日から職務停止となっていた尹氏は失職した。
韓国の世論調査や憲法裁判所の構成から、審理の行末はおおかた予想されていたとはいえ、筆者は8人の裁判官全員(欠員1人)の意見が一致したことに驚いた。
この決定により、6月3日に大統領選挙を行い、同日を臨時休日にすることが閣議決定された。韓国の新政権は、国論の分裂と複雑化した国際環境の中で、通常与えられる約2カ月の政権移行期間もなく、選挙直後から難しい政権運営を迫られる。
争点と裁判所の判断
今後の帰趨を占う前に、尹前大統領に対する弾劾訴追の状況を簡単に整理しておきたい。争点は次の5つだった。
① 非常戒厳宣布の適法性:憲法が定める非常戒厳宣布の要件を満たしていたか。手続きは閣議を経るなどしていたか。
② 戒厳布告令の内容:戒厳司令官(陸軍参謀総長)が発出した戒厳布告第1号が憲法の規定から逸脱していないか。
③ 国会の封鎖と侵入:憲法の規定に基づき国会は戒厳の解除を要求でき、大統領は解除しなければならないところ、国会に戒厳軍を派遣した。
④ 中央選挙管理委員会の封鎖と侵入:憲法機関である中央選挙管理委員会に戒厳軍を派遣し、電算システムを点検した。
⑤ 政治家などの逮捕・拘束の指示:国会議長や与野党の主要議員、市民活動家などを逮捕・拘束しようとした。
憲法裁判所は、これら5つの争点に対して審理したわけだが、非常戒厳の宣布自体は憲法上認められた大統領の専権事項だ。つまり、尹氏は憲法で認められた権限を行使したが、その前提となる条件や権限行使のあり方が問われた事件といえる。
では、憲法裁判所は、どのような理論で弾劾訴追を審理したのだろうか。