まず、非常戒厳宣布について、「高度な政治的決断を要する行為だとしても、(憲法裁判所は)憲法および法律違反の有無を審査することができる」と、管轄権があることを示した。
次に、尹氏が非常戒厳を決断した背景にある、野党による閣僚や検察官への度重なる弾劾、一方的な立法権の行使、予算削減の試みについては、野党の動きを遡ることなく、「重大な危機的状況を現実に生起させたとみることができない」と尹氏の判断を否定した上で、「普段の権力行使で対処できることであり、国家緊急権の行使を正当化することはできない」と結論づけた。
「危機的状況」は本当になかったのか
判決文は114ページにおよぶ長大なものだが、「結局、被請求人(註:尹氏)が主張する事情をすべて考慮しても、被請求人の判断を客観的に正当化できるほどの危機的状況が、この戒厳宣布当時に存在したとみることができない」という一文がすべてを物語っているといえるだろう。
筆者は、尹氏の非常戒厳宣布と国会の封鎖は悪手だったが、決断に至った背景に理解を示す記事を寄稿していた。
その内容は、北朝鮮の強い影響下にある労働組合などが政治的混乱を煽っていることに加えて、哨戒艦や島嶼への攻撃やサイバー攻撃を繰り返す北朝鮮が選挙介入など「認知戦」を展開していることを否定するのはナンセンス、というものだ。
憲法裁判所の結論を受けて、与党・国民の力関係者に意見を求めた。
「憲法裁判所の裁判官が全員一致で、弾劾を認めた意味は重いですね。特に、尹大統領が最高裁判所長官まで拘束しようとして、司法の独立性を侵害したことが心証を悪くしたと思います。
ただ、審理では戒厳宣布当日の状況に限って、危機的状況ではなかったと判断していますが、これは屁理屈でしょう。様々な状況が積み重なり、危機的情勢が醸成されるわけですから。決断の是非を審査するのに過去の経緯は考慮しないとは現実的ではありません。
韓国政治で保守は死にましたが、国民感情では保守と進歩の分裂は深刻で、深まった溝は埋まらないでしょう」
結婚式に招待・参加しない
韓国ギャラップが4月3日に公表した世論調査の結果では、尹氏の弾劾賛成が57%、反対が37%だった。弾劾訴追直後の結果は賛成75%、反対21%で、時を経るにつれてその差は縮まってきていたが、国民の過半数が弾劾を望んだ事実は変わらない。
また、国民の力関係者が述べた「深まった溝は埋まらない」状況は深刻で、今の韓国では保守と進歩が政治の話をしないどころではなく、一緒に酒を飲まない、結婚式に招待・参加しないなど、国論の分裂が市民生活にまで大きな影響を与えている。
このような中で、6月3日に大統領選挙が行われ、当選者は直ちに国政運営を任されることになる。
