「ビジョン2030」など開発計画の難航は、国民への負担増につながっている。サウジは新たな緊縮財政策の一環として、18年に導入した5%のVATを、20年7月に15%に引き上げざるを得なかった。失業率も20年第1四半期の11.8%から第3四半期には14.9%に上昇しており、30年の目標の7%を達成するにはさらなる雇用創出が必要である。
また、世界的な脱炭素化に向けた動きは、湾岸アラブ諸国にさらなる脱石油政策の促進を迫るだろう。潤沢な石油収入のタイムリミットは、それほど遠くない将来にある。英石油大手BPは20年8月、将来の石油需要の減少に対応し石油とガスの生産を40%引き下げ、低炭素エネルギーへの50億㌦の投資を含む大規模な経営戦略の変更を明らかにした。湾岸アラブ諸国についても、早急に脱石油経済への転換を図る必要があるが、これまで論じてきたように政策手段は限られている。
経済不況でくすぶる火種
日本は「したたかさ」を
サウジは国民の不満を和らげるために映画館やコンサートなどエンターテインメントや女性の自動車運転、観光ビザの解禁など相次いで開放的な施策を打ち出したが、景気低迷により不満を募らせている国民と、開放政策に反対してきた宗教的な保守勢力の動向には注意を要する。サウジと比べ人口規模が小さく、比較的財政余力のあるUAEやカタールにとっても、コロナ禍の長期化とそれにともなう国際経済の低迷は、観光部門や海外直接投資の誘致に深刻な影響を及ぼしかねない。
しかし一方で、イスラエルとの国交正常化やカタール封鎖解除など地域のビジネス界にとって好材料も生まれていることも事実である。現地の政府系企業や財閥を中心に、イスラエルのハイテク関連や金融、エネルギー分野などでの連携・協力、カタールとのビジネス再開、ドーハで行われる22年ワールドカップ(W杯)カタール大会への準備が急ピッチで進められている。
見方を変えれば、長年にわたり原油価格の変動や不安定な周辺地域情勢というリスク要因を抱えながらも、これまで経済発展を遂げてきた湾岸アラブ諸国の経済は「したたかさ」を有しているとも言える。
一般的に、長期的な取引関係を重視するといわれるアラブ社会を相手にビジネスをするならば、09年のドバイ・ショックのような一時的な経済停滞や10~12年の「アラブの春」後の政治的な混乱など、ある程度の短期的なリスクに直面した際にもビジネスや経済取引から撤退することなく、辛抱強く付き合い続ける「したたかさ」が日本にとっても必要となる。この苦境を機に日本と湾岸アラブ諸国との経済関係がより深化することを期待したい。
■「想定外」の災害にも〝揺るがぬ〟国をつくるには
Contents 20XX年大災害 我々の備えは十分か?
Photo Report 岩手、宮城、福島 復興ロードから見た10年後の姿
Part 1 「真に必要な」インフラ整備と運用で次なる大災害に備えよ
Part 2 大幅に遅れた高台移転事業 市町村には荷が重すぎた
Part 3 行政依存やめ「あなた」が備える それが日本の防災の原点
Part 4 過剰な予算を投じた復興 財政危機は「想定外」と言えるのか
Part 5 その「起業支援」はうまくいかない 創業者を本気で育てよ
Part 6 〝常態化〟した自衛隊の災害派遣 これで「有事」に対応できるか
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