2024年4月27日(土)

World Energy Watch

2021年6月15日

(filmestria/gettyimages)

 2019年4月5日、グリーンピースなどの7環境団体と17000人を超えるオランダ国民が、ロイヤル・ダッチ・シェルが本社を置くオランダ・ハーグの地裁に「シェルは、排出抑制の対策が可能にもかかわらず二酸化炭素(CO2)を排出することにより、欧州人権条約及びオランダ法に違反し人類に危機を引き起こしている。同社が設定している目標は不十分であり、製品の使用時に排出されるCO2にも責任を持ち、パリ協定の目標に基づき排出削減を行うべき」として訴訟を起こした。

 2年にわたる審理の結果、5月27日ハーグ地裁は、世界で初めてオイルメジャーに対し販売する石油製品などから排出されるCO2削減を含め、2030年までに2019年比45%の削減を命じる判決を出した。ガソリン、軽油の使用時に排出されるCO2を削減する有効な手段は現在ないので、この判決に応えるためには、石油製品などの生産をほぼ半減するしか方法はない。シェルは、10年間で45%削減は企業活動の縮小以外の方法では不可能であり受け入れられないとして、上告する意向を明らかにしている。

 温室効果ガスの増加が温暖化を引き起こし、いま地球は危機的状態にあると主張する環境団体にとっては大きな勝利であり、「石油時代の終わりの始まり」と伝える報道もあった。しかし、CO2の削減と温度上昇の関係、温暖化により引き起こされる被害額の大きさなど確実ではないこともある。そんな中で、シェルなどのオイルメジャーが原油生産と石油製品販売減を迫られると何が起きるのだろうか。漁夫の利を占める代表はロシア。苦しむ可能性があるのは石油製品の使用が当面続く途上国を含む消費国になりそうだ。

石油生産はピークを迎えていなかった

 石油の生産と需要は、コロナ禍前の2019年にピークを迎えたとする意見もあったが、コロナ禍から経済が回復する過程で石油消費はピークアウトしていなかったことが、はっきりしてきた。米エネルギー省は、短期的には石油製品生産量の回復を予想している(図-1)。

 一方、主要国が2050年温室効果ガス実質排出量ゼロ(ネットゼロ)を宣言したことから、今後、石油を含む化石燃料の消費は大きく減少するとの予測も出ている。大きく減少するのであれば、オイルメジャーの石油、天然ガス生産量が減少しても経済活動には大きな影響はないのかもしれない。

 しかし、そうは言っても30年先の話だ。その間石油、天然ガスは依然として使用されることになる。欧米のオイルメジャーの生産量が大きく減少すると、その穴埋めが必要になる。温暖化問題に熱心ではないロシア、石油輸出国機構(オペック)を構成する途上国は、2050年のネットゼロ目標を設定している訳ではない。サウジアラビアとカタールは、「ネットゼロ生産者フォーラム」を米国など3カ国と結成したが、具体策の策定を行っていない。環境団体により排出を削減していないと訴えられることも、裁判所がその訴えを認める可能性もないだろう。オイルメジャーが生産量を削減すれば、増産することは可能だ。

 ロシア・プーチン大統領は、かつて「温暖化により、ロシア人は毛皮を必要としなくなるメリットがある」と発言したことがあるが、ロシアには毛皮以上のメリットがある。温暖化により北極海を航路として利用可能になれは、現在進んでいる天然ガス生産、液化しての輸出が容易になる。北極海の海底油田の開発も進むことになる。

 プーチン大統領は、パリ協定前には交渉を壊そうとしていると伝えられたこともあったが、2019年にパリ協定を批准し、気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局に自国の目標を提出している。「2030年に1990年比30%削減」だが、旧ソ連時代の非効率な設備が置き換わることにより、この目標は既に達成しているとみられている。森林吸収を勘案すれば、1990年比50%減になっているとの観測もあり、今後CO2排出量を増やすことが可能だ。


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