死の商人と呼ばれる武器を紛争地帯で販売する人たちがいる。紛争が全くなくなれば困る人たちだろう。温暖化の商人と呼んでも良い人たちもいる。太陽光パネル、風力発電設備、蓄電池など、使用に際し二酸化炭素を排出しない製品を販売している人たちだ。温暖化問題に取り組んでいる人たちからすれば賞賛すべき人たちだが、温暖化の商人も温暖化問題が注目され、対策が取られなければ困るに違いない。いま世界で温暖化の商人に最も近い位置にいるのは中国だ。
中国政府は温暖化対策として石炭使用量削減を予定しているが、その背景には都市部の大気汚染対策上近郊での石炭火力発電所の操業が困難になっていることもある。さらに、増大する世界一の電力需要を賄うためには再エネによる発電量が増えることも自然と温暖化対策になる。世界の主要国が温暖化対策を進めれば、自国の太陽光パネルから蓄電池まで対策に必要な製品が大量に売れることも中国が温暖化対策に熱心な理由の一つだ。中国は太陽光パネルの世界供給量の8割近くを生産している。まさに温暖化の商人だ。
温暖化の商人中国にとっては、世界の温暖化対策が厳しくなればなるほど商機は拡大する。バイデン大統領の米国がパリ協定に復帰し温暖化サミット開催、2030年排出目標引き上げに踏み切っているのは、大歓迎だろう。日本は2030年目標を2013年比46%削減に引き上げた。英国は2035年1990年比78%減の目標を出したが、主要国の排出目標引き上げが野心的であるほど中国のビジネスにつながる。
人権、香港問題などで対立が続く米国主催の温暖化サミットに参加し、温暖化対策強化を訴える機会があるのは中国にとってはありがたいに違いない。口にだして宣伝しなくても、結果として各国の温暖化対策強化は中国製品の販売につながり、中国依存はますます高まることになる。
しかし、温暖化サミットを開催した米国は、中国依存を高めることを避けたいに違いない。世界一の温室効果ガス排出国中国に排出削減を求めたいが、再エネ設備などの供給を中国に依存することを避けなければ、温暖化対策でも中国の存在感を高めることになる。中国依存を避けるために考えられる方策は、中国に代わり米国を中心とした国が世界に関連設備を供給することだ。オバマ元大統領時代に行われていた環境技術、製品での米中協力などありえないのは当然だ。
米国が中国とのエネルギー・環境技術での協力を見限り、中国離れを画策する中で、日本企業には米国企業との協業のチャンスが広がる。中国の再エネ設備に頼らなくても、小型原子炉、燃料電池、蓄電池、水素製造など多くの分野で日米が主導権を取り、世界に供給することが可能になる。