World Energy Watch

2021年4月14日

»著者プロフィール

 欧州委員会(EC)が、2050年に温室効果ガスの実質排出量ゼロ(ネットゼロ)の目標を欧州連合(EU)加盟国に提案することが明らかになったのは、2018年10月だった。翌2019年春のEU首脳会議で議論が行われたが、石炭火力への依存度が高く、温室効果ガス削減コストによる経済への悪影響を懸念した中東欧諸国と、やはり雇用と経済への影響を懸念したドイツの反対により簡単に合意は得られず、結局、離脱前の英国を含む27カ国によりネットゼロが目標として合意されたのは2019年12月だった。この段階でも石炭火力発電の比率が高いポーランドは合意しなかった。

 ECは、2050年ネットゼロを達成するためには2030年にも大きな削減を達成し軌道に乗せるべきとして、2020年9月、1990年比40%温室効果ガス削減としていた2030年目標を55%削減に引き上げることを目指すと表明した。10月のEU首脳会議では、フランス、スペインなど西側諸国が引き上げ支持を表明したものの、ドイツは表明せず合意に達しなかったが、12月の首脳会議にて徹夜交渉の末合意が得られた。合意では中東欧諸国からの要請により、どのようなエネルギーミックスと技術を選択するかは加盟国に任されることになった。

 また、移行期の技術として天然ガスの利用もあり得るとされたが、いま天然ガスの先行きも風前の灯になってきた。一方、EU議会の会派では、原子力発電と再エネとの比較ではコスト競争力があり温暖化目標達成には経済的負担が小さい原子力発電を利用すべきとのレポートも発表されるなど、原子力を使うべきとの声も強まってきている。

(cagkansayin/gettyimages)

2050年ネットゼロがエネルギーの世界を変えるか

 欧米の機関投資家あるいは資産運用企業が二酸化炭素(CO2)排出量が相対的に多い石炭関連資産、企業への投資を引き上げる顕著な動きを見せている。欧米の国際金融機関も石炭関連設備への融資を行わない方針を明確にしている。石炭との比較では相対的にCO2排出量が少ない天然ガスも温暖化を引き起こしており問題として指摘する声が数年前から出ていたが、その声は大きくなってきた。今年1月には、化石燃料関連融資を年内に終了することを決めている欧州投資銀行総裁が、「天然ガスは終わった」と発言した。

 逆風が強まった理由は、EUあるいは米国の温室効果ガス排出削減目標が強化されたためだ。EUのかつての目標2050年1990年比80%削減であれば、化石燃料の中ではCO2排出量が少ない天然ガス利用の余地はあった。しかし、ゼロとなれば、天然ガス使用を全廃するか排出されたCO2を捕捉、貯留する装置を付けるしか方法はない。EU、米バイデン政権などが2050年ネットゼロを宣言したことにより、天然ガスに対する風向きは急変したのだ。

 結果、石炭関連資産だけでなく、石油、天然ガス関連資産も不良化し、いわゆる座礁資産になるとの声も出てきた。今年1月、3500億ポンド(53兆円)の資産運用を行っている英国最大手の一つアビバ・インベスターズが、気候変動対策に取り組まない石油・ガス会社に対しては株主総会で反対票を投じ、最終的には株式売却も検討すると発表した。欧州ばかりではなく、米国でも厳しい声が出ている。昨年12月資産運用額2260億ドル(約25兆円)のニューヨーク州年金基金が、石油、天然ガス関連投資に関し新たな基準に基づきリスク評価を行い、その結果投資の引き上げも検討すると発表した。

 天然ガスは、クリーンなエネルギーとして発電部門でも大きくシェアを伸ばし、これからも成長するとみられていたが、今やEUでは厄介者扱いになってきた。

関連記事

新着記事

»もっと見る