2024年4月29日(月)

World Energy Watch

2021年1月20日

 再度問うと書いたが、最初に「電力自由化がもたらす天国と地獄」を掲載したのは、World Energy Watchの連載の中でのことだ(『電力自由化がもたらす天国と地獄 破綻する電力と儲かる電力の違いは何か?』)。電力市場自由化を主要国中もっとも早く進めた英国の電力小売り会社が、電力の卸市場価格の上昇に耐えられず破綻した背景を4年前に説明した。自社の発電設備を持たない小売り会社が卸価格の上昇に耐えられず破綻するケースは、英国ではその後も起こっている。

 いま、日本では電力自由化を受け新規参入した新電力と呼ばれる小売事業者の一部が導入している市場連動型料金プランによる電気料金高騰が問題になっている。英国では以前から起きている自由化に伴う小売りの問題が、日本でも出てきたということだ。英国では6年前に導入された容量市場が日本では昨年導入された。まるで英国の4、5年遅れで自由化に伴う問題が表れているかのようだ。

(NiseriN/gettyimages)

電力の卸市場

 いま、日本に約700社ある新電力の多くは発電設備を保有していない。設備を保有している企業は20社に1社程度だ。設備を持たない新電力は、小売りのための電力の仕入れを企業が持つ自家発設備などに依存し相対の契約を締結するか、あるいは、かつて一般電気事業者と呼ばれていた大手電力などが余剰電力を供給する電力の卸市場、日本卸電力取引所に依存するしかない。卸市場では翌日の電力供給量を売り手が提示し、買い手が必要量を提示することで価格が決定される。

 昨年の暮れから今年にかけ、通常1kWh当たり10円以下の一桁で推移することが多い卸電力価格が高騰する事態になった。今年1月の1日平均価格の推移は図‐1の通りだ。通常の10倍以上の価格の日もある。高騰の最大の原因は寒波により電力需要が増加し市場に供給される電力量が減少したことだが、今の日本の発電を最もまかなっているLNG(液化天然ガス)火力での燃料在庫が少なくなったことも原因だった。

 LNGの輸入国は日本が世界最大だが、最近になり大気汚染対策を進める中国の購入量が増え、日本に迫っている。特に冬場になると暖房用石炭消費量抑制のため天然ガス消費が増える(『凍える中国から学ぶべきことは? 強権的ではなく理性的な政策』)。

 昨年末から中韓の消費増、輸送の問題などの影響によりLNGの入荷が遅れ始めたが、大手電力も停電を避けるためには需要ピーク時に対応可能なように燃料を常に持っておく必要があり、大手電力から卸市場に供給される余剰電力量が減少するようになったようだ。このため、新電力が必要とする電力量が市場で供給されなくなり、卸価格が高騰することになった。

 大飯原子力発電所4号機の定期点検終了による起動、LNG船の到着による在庫量の回復はあるものの、天候次第では今後も電力需給逼迫は続き、卸電力価格が高値で推移する可能性もある。この高騰により、卸市場で電気を仕入れ、決まった単価料金で電気を小売りしている新電力では逆ザヤが生じることになった。

 東日本大震災後、節電意識の高まりもあり日本では電力需要は減少しており、今までは卸市場価格は、波を打ちながら減少する需要を反映し、時々上昇はあるものの低位安定が続いていた。発電設備を持たない新電力も卸市場で仕入れ、それを販売することで収益を上げることが可能だった筈だ。また、電気料金を卸電力市場で取引される卸価格に連動した方式で決める料金プランを導入する新電力も何社か登場した。消費者は卸価格を見ながら電力消費の時間帯を決めることができるので、節約にもつながるプランだが、卸価格が高騰すると消費者負担の電気料金も跳ね上がる。なぜ、そんな料金プランが導入されたのだろうか。


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