EUの天然ガス座礁資産額は少なくとも10兆円?
EU内では天然ガス消費量は、石炭減少分の穴埋めもあり当面増加するとの見方が多かったが、EUの2030年温室効果ガス削減目標が1990年比55%に引き上げられ、50年ネットゼロが設定されたことから天然ガス消費量の予測も引き下げられ始めた。ECのレポートでは2030年の天然ガス消費量は2015年比少なくとも30%減少すると想定されている(図-3)。
天然ガス消費量が2030年に向け30%減少することになれば、直ちに削減が始まってもおかしくないが、EUでは依然として、ガスパイプライン、LNG受け入れ設備の建設が行われている。今から設備を建設すると、需要減少により設備の利用率が低迷することが予想され設備は不良資産化する可能性がある。再生可能エネルギーの研究者が中心のNGOグローバル・エナジー・モニターの分析によると、現在、EUにおいて建設中あるいは準備中の施設への投資額は次のようになっている。
パイプライン 建設中 180億ユーロ(2.3兆円)建設準備中 530億ユーロ(6.9兆円)
LNGターミナル 建設中 26億ユーロ(3400億円)建設準備中 130億ユーロ(1.7兆円)
キャンセルされた投資案件も51億ユーロ(6600億円)と伝えられているが、建設準備中まで含めると投資総額は11兆円を超えている。その中で、大きな案件はロシア・ガスプロムが欧州企業からの融資も得て進めている海底パイプライン・プロジェクト、ノルドストリーム2だ。
ロシアとドイツを直接結び天然ガスを輸送するノルドストリーム2に対し、米トランプ前大統領がロシアへの依存度が高まるとして反対し、敷設に係わる企業へ制裁を課した。総投資額110億ユーロ(1.4兆円)のプロジェクトは建設が遅れたものの95%完成済みだが、米国が反対するまでもなく、需要面からプロジェクトは苦しくなるかもしれない。ただ、米国のEU向けLNG販売にも暗雲が立ち込めることにもなる。
果たして、ECが目論むように天然ガスを大きく削減することが可能だろうか。CO2削減のためには電化を進め、さらには水の電気分解による水素製造を進める必要もある。増加する電力需要を満たすため再エネを大量に導入するには、安定的に発電できる天然ガス火力がバックアップとして必要だ。電化を進めるためには、再エネではなく原子力を利用すべきとの意見が欧州議会などで聞かれるようになってきた。