2月中旬米国を襲った寒波は、テキサス州を中心に停電を引き起こし、同州では400万以上の家庭が停電することになった。停電、水道管破裂などテキサス州の状況が日本でも大きく報道されたが、電力市場が自由化されているテキサス州では、卸電力価格連動型電気料金制度を選択していた2万9000の消費者の1週間の電気料金は100万円になることもあると報道されている。
日本でも1月の電力需給逼迫時に卸電力価格が高騰し、卸価格連動型の電気料金制度を選択していた需要家の電気料金が大きく上昇したことが話題になったが(『電気料金はなぜ突然10倍にもなるのか、再度問う「電力自由化の天国と地獄」』) 、ひと月当たり10万円はあっても、100万円にはならなかった。テキサス州の一部消費者は、とんでもない価格の電気料金を請求されることになる。卸価格連動型料金を導入していた電力小売り会社は料金の分納制度を導入したが、消費者からは「不当な料金で経済的損失と精神的痛手を被った」として訴訟が起こされる事態となっている。
何が電気料金をここまで上げたのだろうか。問題の背景には、米国でも極めて特殊なテキサス州の電力市場と制度がある。
米国の電力自由化
1998年から電力市場を自由化し、発電部門への新規参入を認めた米カリフォルニア州では、2000年から2001年にかけ卸電力価格が高騰し、最後には輪番停電を実施するほど電力供給が不足することになった。その最大の理由は、新規参入した発電事業者の中に卸価格高騰を狙い一部の発電設備を意図的に停止する企業が入っていたためだ。
発電事業者として参入していた当時売上高全米7位の巨大エネルギー企業エンロンが、2011年12月粉飾決算により倒産する。倒産後社内の会話を録音したテープが大量に見つかり、その中にカリフォルニア州の卸電力価格高騰を狙い、発電所を意図的に停止させる本社と発電所間の会話の録音が残っていた。他の発電事業者の中にもエンロンと同様の操作を行った企業があったのではないかと言われているが、多くの発電所が停止する事態となり、輪番停電を招いてしまった。
節電のためクリスマスツリーの点灯すらできなくなり、ニューヨークタイムズ紙にコラムの連載を始めたばかりの2008年ノーベル経済学賞のポール・クルーグマン・ニューヨーク市立大学大学院教授は、「自由化してはいけないものは3つ。教育と医療と電気」とコラムに書くほどだった。
同州は消費者への影響を避けるため電力小売価格を凍結したまま自由化を進めた結果、小売りを行っていた同州の大手電力が大きな赤字を抱えることになり、州政府が卸価格と小売価格の差を負担することになった。
このカリフォルニア州の経験を受け、米国では自由化を中断あるいは見送る州も多くなった。今電力市場を一部を含め自由化しているのは17州とされている。テキサス州は、カリフォルニア州が自由化により輪番停電を経験した直後の2002年1月から電力市場の自由化を開始し、消費者は電力の小売事業者を選択可能になった。