2024年11月21日(木)

World Energy Watch

2021年1月7日

 米国の思想家、環境活動家として知られるレスター・ブラウン氏が、米国アリゾナ州の砂漠地帯に風力、太陽光発電設備を設置の上需要地に送電を行い、電力需要が落ち込む時には余った電気を使い水を電気分解(電解)し水素に転換、貯蔵すれば良いとの考えを述べていたことがあった。残念ながら、このアイデアの実現は現時点ではコスト面から難しい。日照時間も長く、風量もあり再生可能エネルギーの発電コストが低くなったとしても、余剰電力による稼働では電解設備の利用率が低くなる。つまり、いつも発電できない再生可能エネルギー利用では高額な電解設備の単位当たりの減価償却費が高くなるため製造した水素のコストも高くなってしまう。

 水素をロケット用燃料に初めて使用した米国政府も、徐々に水素に関心を失い最近ではエネルギー省も水素技術関連予算の減額を続けていた。だが、バイデン次期米大統領は、今後4年間で2兆ドルをインフラ、エネルギー分野など気候変動対策に投じるとしている。燃やすと電気を作るが二酸化炭素(CO2)を排出しない水素はその中で重要な位置づけを得ており、製造コスト削減策には高価な電解設備価格の引き下げも含まれている。電解設備の投資額が大きく引き下げられることになれば、レスター・ブラウンのアイデアも実現するだろう。

 いま、日本、欧州、中国など世界の主要国は、2050年温室効果ガス純排出量ゼロ実現には水素利用がカギになると考え、利用拡大を図ると同時にコスト引き下げに乗り出した。

(Petmal/gettyimages)

温暖化対策の主役に躍り出た水素

 水素は利用しても水しか排出しないクリーンなエネルギーだが、つい数年前まで、水素をエネルギーとして注目していた消費国は、東アジアの日本、中国、韓国が主体で、供給国としては大規模な褐炭を抱える豪州が中心だった。褐炭は低発熱量で水分が多く輸送コストが高くなることに加え、自然発火する可能性が高いから、そのままでは輸出できない。石炭は水分が高いほど発火し易い。かつて日本企業が豪州から褐炭のサンプルを大量に輸入したところ輸送途上に自然発火したこともあった。褐炭をガス化し現地で水素の形に変え、液化により体積を縮小すれば、輸送可能になり輸出品目に変えることが可能だ。

 いま、水素を取り巻く事情は変わった。日本を含め多くの国が宣言した2050年温室効果ガス純排出量ゼロを達成するためには、水素の活用がカギになると主要国が考え始めたからだ。世界のCO2排出量を見ると、電力部門が40%以上を占めている。電力部門は低炭素電源の導入でCO2排出量をほぼゼロにすることが可能だろう。

 排出量の約25%を占める輸送部門も電気自動車の導入により乗用車の排出量をゼロにすることはできるかもしれないが、電池の重量を考えるとトラック、ディーゼル列車、船舶、航空機の電動化は難しい。また約20%を占める産業部門では、高炉利用の製鉄のように原料、還元剤として石炭を利用し製造工程でCO2を排出する場合には電化を行うことは困難だ。

 結局、電化を多くの部門で進めることによりCO2をある程度削減することは可能だが、ゼロを達成することは電化だけでは不可能だ。電化できない分野での対策として水素が欧米諸国でにわかに注目を浴びることになった。特に、欧州主要国は水素利用に前のめりと言ってよい状態にある。もちろん、水素を利用するには貯蔵、輸送を含め設備の大きな変更が必要になることは、たとえば、自動車では燃料電池が内燃機関に代え必要になることを見れば分かる。設備をどのように更新、新設するかも大きな課題だが、競争力のある水素をどのように製造するかは、CO2排出量に加えエネルギーコストにも影響を与え、産業、私たちの生活にも大きな影響が及ぶ問題だ。


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