2024年4月27日(土)

World Energy Watch

2021年1月7日

色とりどりの水素の作り方

 水素製造には様々な方法がある。豪州の褐炭から製造する方法にみられるように、石炭、褐炭、天然ガスなどの化石燃料から製造するのが、現在は主流だ。水素は化学プラントなどで使用され、世界では年間7000万トンが製造されている。国際エネルギー機関によると、その4分の3は天然ガスから製造され、世界の天然ガス消費量の6%を占めている。さらに、中国を主体に石炭からの製造も多く、世界の石炭消費量の2%を占める。いま水素の90%以上は化石燃料から製造され、製造に伴うCO2の排出量は8億3000万トン。日本に次ぎ世界第6位の排出国ドイツの排出量を上回っている。

 天然ガスから製造する水素をグレー水素、石炭から製造する水素をブラック水素、褐炭からの水素をブラウン水素と呼ぶことがある。色で水素の原料を推測可能だが、化石燃料から水素を製造するのではCO2の排出量を抑えることは難しい。たとえば、天然ガスから1kgの水素を製造するのに伴い10kgのCO2が排出される。石炭を利用し製造する際には、その2倍近いCO2が排出される。

 天然ガスからの水素を利用し、水素1kgで125km走行可能な燃料電池車(FCV)を走らせると、走行時にはCO2の排出はないものの、水素製造時の排出量を考慮すると1km当たり80gのCO2が排出されることとなる。結果としてハイブリッド車を少し下回る排出量となってしまい、温暖化対策には大きくは寄与しない。そのため、主要国はCO2排出を伴わない水素製造方式に力を入れ始めた。その一つは化石燃料から製造するが、排出されるCO2を捕捉、貯留するCCSと呼ばれる設備を設置することだ。この水素はブルー水素と呼ばれる。

 米国、欧州連合などが力をいれているのが、CO2を排出しない電源を利用し水素を水の電解から製造する方式だ。再生可能エネルギーを利用し製造すればグリーン水素と呼ばれ、原子力を利用し製造すればパープル水素(パープルはバイオマスから製造する水素を指すこともある)と呼ばれる。水素製造への原子力の利用には、欧州では支持するフランス、フィンランド、オランダなどと反対するオーストリア、デンマークなどで意見が分かれている。

水素の製造コスト

 水素のコストを考える際には、製造に加え輸送、貯蔵などのコストも考える必要があるが、ここでは製造コストが水素製造方法によりどのように変わるのか、さらに将来水素がエネルギーで大きな位置を占めることが可能なコスト競争力を持つことになるのか考えてみたい。

 日本の水素ステーションで販売されている水素の価格は1kg当たり1100円(税込み)だ。FCVの走行を1kg当たり125kmとすると、1km当たりの燃料費は8.8円となる。ガソリン価格を1L当たり130円とすれば、燃費15km/Lの内燃機関自動車1km当たりの燃料費は8.7円になる。ガソリン価格にもよるが、燃費の良いハイブリッド車との比較ではFCVの燃料費は高くなりそうだ。FCVの価格が高いこともあり経済性の視点からは水素価格の下落が必要になる。

 いま、化石燃料から製造される水素のコストは、地域により化石燃料価格が異なるので幅がある。国際エネルギー機関によると2018年の時点で天然ガスからの製造コストは1kg当たり0.9から3.2ドル、石炭利用は1.2から2.2ドルだが、グリーン水素のコストは3.0から7.5ドルと相対的に高い。

 トヨタ自動車などの国際的企業が参加する水素協議会の昨年1月のレポートでは、欧州の洋上風力を利用したグリーン水素の2020年価格6ドル/kgは設備投資額、発電コストを大きく引き下げることにより2030年に2.6ドルに下落すると予測している。化石燃料から製造する水素とほぼ同じレベルになる。ただ、水素1kgの電解による製造には55kWhの電力が必要とされることから、1kWh当たりの電力価格は2から3セントの前提になっていると思われる。


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