オイルメジャーの苦悩
2019年にシェルが訴えられた時にメディアが触れたのは、英国などに本拠を置くNPO・CDPが発表しているCarbon Majors Reportによる企業別のCO2排出量のリストだった。このリストは1965年以降の排出量に基づいている。1965年が選択されたのは、その時にはCO2が温暖化を引き起こすことが分かっていたからと説明されているが、1971年に出版された立花隆氏の『思考の技術‐エコロジー的発想のすすめ』では、地球は冷却化しているので、防ぐにはどうすれば良いかと書かれている。温暖化問題が脚光を浴びだしたのは、1980年代後半からだ。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が設置されたのは、1992年のことだ。
最新のリストでは、国営企業が加わりサウジアラビア・アラムコが1位、ロシア・ガスプロムなども上位に顔をだしているが、当時のリストに基づくと、世界で最も排出量が多かった企業は、石油王ロックフェアーが設立したスタンダード―オイル・オブ・カリフォルニアなどを起源とするシェブロン。以下2位、エクソン・モービル、3位BP、4位シェルとオイルメジャーがリストアップされていた。
化石燃料に対する逆風を受け、オイルメジャーも温室効果ガス削減に注力し、生産部門でのメタンガス排出減などを行っている。欧州系2社は、太陽光、風力発電などの再エネ導入、電気自動車の充電スタンド事業にも熱心に取り組んでおり、シェルは2050年には操業に伴う排出をゼロにし、石油製品などの使用に伴う排出もゼロにすることを今年2月宣言している。BPも製品使用に伴う排出減に森林吸収などを利用し取り組むことを明らかにしている。
4社ともに、コロナ禍の影響を受け2020年の業績は低迷している(表-1)。事業内容の転換も簡単には進まない。再エネ、水素、充電スタンドなどに取り組んでいるシェルの2020年の資本支出額(現金使用)は、178億ドル(約2兆円)だが、分野別では石油・ガス生産の上流部門73億ドル、液化設備などのガス部門43億ドル、精製設備などの石油部門33億ドル、石油化学部門26億ドルとなり、再エネ、水素などへの投資は9億ドルに過ぎない。
再エネなどへの大きな投資が難しいのは、化石燃料との比較では長期的に高収益を生む案件が限定されていることに加え、再エネ事業では雇用者数が減少し、しかも給与が下がるとの問題もあるからだろう。再エネ設備の主たる雇用は建設雇用なので、化石燃料関連事業ほどの雇用は必要ない。しかも、米国の産業別年収では、再エネ関連の年収は、石油・ガス掘削の半分程度なのだ(表-2)。コロナ禍の影響もあり、BPでは2018年末の雇用者73000人が、2020年末63600人に減少している。シェルは来年末までに現在の87000人の雇用者を7000人から9000人削減する計画を発表している。脱炭素により人員削減に拍車がかかることにもなりかねない。