原油・天然ガス輸出が必要なロシアが漁夫の利?
ロシアは、原油生産では米国に次ぎ、サウジアラビアを少し上回る世界2位(図-2)。天然ガス産出量は、シェールガス生産が増えた米国に抜かれたものの世界2位だ(図-3)。米国とロシアの大きな違いは、ロシアでの生産は国営企業が担い、ロシア政府の財政を支えていることだ。ロシアの国家予算の約40%は、原油と天然ガス関連の収入により賄われている。原油、天然ガス生産の落ち込みと収入の減少は、国の財政問題、年金などを通し国民の不満につながることになる。ロシアが原油、天然ガス生産数量を落とすことは当面考えられない。機会があれば、さらに生産数量増を図ることになるだろう。シェルへの判決により欧米での原油生産に影響があるならば、ロシアには増産のチャンスになる。
ロシアあるいは途上国を間接的に後押しする動きは、経済協力開発機構(OECD)、国際エネルギー機関(IEA)からもある。IEAは5月に公表した2050年ネットゼロ社会を目指す過程を明らかにしたレポート、「Net Zero by 2050」(Net Zero by 2050 – Analysis - IEA)の中で、化石燃料開発への新規投資を即座に止めるべきと提言している。もし、OECDのエネルギー企業が投資を止めれば、原油生産は直ぐに減少を始めるが、石油の需要が減少しない限り他の産油国には増産のチャンスになる。
直ちに化石燃料の投資を止めるべきとしているIEAの内部資料も様々だ。今年3月に公表されたIEAの石油消費の短期予測では、米エネルギー省の短期予測ほど早い原油需要の回復を予想していないものの、2026年までに世界の消費量は2019年のレベルを日量440万バレル上回り、1億410万バレルに達すとしている。逆風のオイルメジャーが温暖化問題の圧力に負け減産に踏み切れば、他の産油国には増産の機会が巡ってくる。中長期ではオイルメジャーの役割が予想より小さくなり、他の産油国のシェアが増える可能性が高い。