EU内では天然ガス火力依存度が高まったが、そんな中で天然ガス価格が急騰し電気料金を押し上げることになった。図-7が示す今年8月の欧州天然ガス価格、ブレント原油、南アフリカ石炭価格のデータを利用し、輸入地における燃料価格を基に1キロワット時(kWh)あたりのおよその燃料代を計算すると、石炭火力5米セント、天然ガス10米セント、石油9米セントになる(日本でのボイラー効率を基にしていること、また発電所までの輸送費、ボイラー投入までの費用が掛かるので、実際の費用は異なる。以下の排出価格の計算も日本での効率を前提)。
化石燃料利用に伴い排出されるCO2の排出枠の費用も必要になるが、排出枠価格を 1トンあたり70米ドルとすると、1kWhの発電量に対し、石炭6.6米セント、天然ガス4.2米セント、石油5.2米セント程度の負担が発生する。発電の燃料に関わる合計コストは、石炭11.6セント、石油14.2セント、天然ガス14.2セントとなり、排出枠価格が上昇している現状でも石炭の発電コストが化石燃料中では、最も安くなる。
「副作用で仕方ない」では済まされない
価格競争力と燃料供給源に恵まれた石炭火力を廃止し、天然ガス依存度を強めたEUの西側諸国は、大きな電力コストの上昇に直面することになった。脱炭素のため電源の多様化を捨て、発電量が不安定な自然電源と化石燃料の中で天然ガス依存度を高めた結果、電気料金上昇が引き起こされたのだ。
一方、上がり続ける排出枠価格も電気料金の上昇を引き起こした。ECは脱炭素を進めるため排出枠価格の上昇を図る制度を作り出した。ECの気候変動担当のティーマーマンス上級副委員長は、「排出枠価格が電気料金上昇に与えた影響は20%に過ぎない。再エネへのシフトをもっと早くしておけば、天然ガス価格上昇の影響を避けられた」と発言しているが、ECが温暖化対策にのめりこみ、経済性、安定供給への配慮を欠いた結果とも言えるだろう。
脱炭素は間違いなく重要だが、脱化石燃料と炭素価格上昇スピードがあまりに早かったのではないか。脱炭素の過程で原子力の活用も含めた電源構成をどうするのかを良く考え、安定供給と電気料金にも目を配りながら適切なスピードで政策を進めることが必要だ。避けられない副作用で仕方がないとの見方もあるだろうが、エネルギー価格上昇は経済を大きく傷つける可能性があり、副作用の言葉で片付けられない。野心的な目標を掲げる日本にとっては大きな教訓になるのではないか。