スペインでは消費者が規制あるいは自由化料金を選択するが、規制電気料金は既に約40%上昇している。使用量、卸料金抑制のため、6月から時間帯により小売り電気料金に差をつける制度が導入され、ランチタイム前後の4時間、夜の4時間の料金が高く設定される一方深夜の料金が安くなった。さらに、7月から電気料金の付加価値税を21%から10%に引き下げた。電気料金未払い家庭への供給停止を実施しないことも決定された。
9月中旬インタビューに応えたサンチェス首相は、今年末の電気料金をインフレを加味した上で18年レベルに抑制すると述べ、付加価値税減免の継続に加え7%の発電税を年末まで廃止、5.1%の電力税を0.5%まで引き下げることを発表した。首相は電力会社が不当な利益を上げているとして、電力会社の利益に課税し、その額を消費者に還元するとも発表したが、電力会社は市場への介入を許さないとして強く反発している。
ギリシャ政府は、1億5000万ユーロを投入し、大多数の家庭に補助金を支出する計画を発表した。フランス政府も貧困家庭に100ユーロのエネルギークーポン配布を決めた。各国政府は消費者が負担する料金抑制に努めている。そんな中で、ポーランド・モラヴィエツキ首相は「ECの気候変動政策と高騰しているポーランドの電気料金には密接な関係がある」とECを非難している。ECが進めた脱炭素政策が排出枠価格を上昇させ、同国の主電源である石炭火力発電のコストを上昇させたからだ。
脱石炭がもたらした天然ガス依存
20年のEU27カ国の電源別発電量は、原子力25%、天然ガス火力20%、石炭・褐炭火力13%、風力14%、水力13%、太陽光5%となっている(図-4)。脱炭素政策を受けEU27カ国合計では、石炭、褐炭火力からの発電量が減少している。風力、太陽光発電が伸びているが、石炭、褐炭火力の減少分を再エネからの発電量では埋めることができず、落ち込み分の約半分は天然ガス火力の発電量増によりカバーしている(図-5)。
EU全体では石炭・褐炭火力からの発電量は大きく減少しているが、国により石炭火力減少のスピードは大きく異なっている。簡単に言えば、石炭火力からの発電量を急速に削減した西側主要国に対し、依然として石炭火力への依存が高く削減スピードが緩やかな中東欧諸国の形になっている。電気料金上昇を回避したい中東欧諸国は簡単に石炭火力を廃止できない。
さらに、ポーランドなどは国内の石炭産業の雇用維持の問題もある。図-6が、いくつかの国の石炭・褐炭火力発電量の推移を示している。発電量が大きいので図には示していないが、国内に褐炭炭鉱を抱えるドイツは、雇用維持の観点から依然として褐炭による大きな発電量を維持しているが、それでも石炭火力からの発電量は急減している。他の西側諸国も押しなべて急速な「石炭離れ」を進めた。