天然ガス需要は、コロナ禍からの需要回復、例年よりも寒気が強かった冬季の需要増の影響を受け堅調に推移している。一方、EUが天然ガス輸入の約4割を依存する主要供給国ロシアは、自国内の需要増と冬季に備え備蓄を増やす必要があるため欧州向け供給増には踏み切っていない。
ロシアに次ぐ供給国ノルウェーも設備の保守点検のため供給には制限があった。液化天然ガス(LNG)の欧州向け輸出を開始している米国の天然ガス生産量もコロナ禍前のレベルには回復していない(図-2)。
需給の逼迫を受け欧州内の天然ガス価格は、日本、米国市場と異なり、急騰している(図-3)。ワルシャワ訪問中の米グランホルム・エネルギー長官は9月22日、「ロシアが天然ガスの数量と価格を操作している」と非難した。だが、クレムリンの報道官は、「ロシア・ガスプロムは長期契約の義務を全て果たしている。欧州の需要家の多くが、原油価格リンクの長期契約からスポット契約主体に切り替える選択をした結果だ」と反論している。ロシア依存度が高まる天然ガスを火力発電の主電源とし、米国、豪州、南アフリカ、コロンビアなどにも依存可能な石炭使用を縮小したのもEUの選択だ。
ロシアとドイツの間を直接結ぶ天然ガスパイプライン、「ノルド・ストリームⅡ」が完成し、ドイツの規制当局が使用に関する審査を開始したことから、ロシアが、ウクライナ経由のパイプラインからノルド・ストリームⅡに切り替える時期を早めるため意図的に数量を操作しているとの見方も、欧州内ではある。ドイツ規制当局は9月8日に審査を開始し、必要期間を4カ月と発表した。
天然ガス価格高騰を受け、欧州の電気料金は高騰している。昨年4月1メガワット時(MWh)当たり17.6ユーロだったスペインの卸電気料金は、今年9月中旬史上最高の188ユーロに達した。
電気料金抑制に乗り出した政府
イタリア政府は、電力市場の部分自由化を行っただけで家庭用電気料金を規制している。家庭用料金は3カ月に一度見直されるシステムだが、天然ガス価格上昇により7月1日の見直し予想価格は20%上昇になった。ドラギ伊首相は、家庭用電気料金上昇幅を10%以下に抑制するため12億ユーロを投入し、上昇幅を9.9%に抑え込んだ。
その後も卸電力価格の上昇は続き、10月1日の見直しでは家庭用電気料金は40%上昇すると予想されたことから、ドラギ首相は、電気料金のうち20%を占める再生可能エネルギー(再エネ)支援などに使用されるシステムコスト負担のため30億ユーロの税金投入を決めた。ただ、消費者団体からは、「それだけでは料金抑制には不十分だ」と不満の声も聞こえている。