2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2021年1月14日

(RonFullHD/gettyimages)

 政府が検討中の外国資本による土地買収に関する法案の対象は防衛施設や離島、原発の周辺に限るとみられ、非常に狭い。「周辺」という範囲が仮に数百㍍になるとすれば、かなり限定されることになる。米国は軍・政府施設周辺について、160㌔メートルの拡張範囲を審査対象にしている。

 予定では、2021年の通常国会での法案提出を目指しており、予算関連法案にはならないのではないか。土地を国が購入する国有化や、所有者へ補償金を支払うような利用規制までは踏み込まないだろう。あくまで土地所有の実態を把握するためのものになると見込む。

 規制対象が薄皮一枚という限定的な法整備の動きだが、第一歩としては評価できる。外国資本による土地買収が問題となってから10年以上もの間、議員立法の動きこそあったものの、法案は全て流れてしまったからだ。しかし、ここで終わらせてはいけない。

 日本の土地所有にかかる問題は、外国資本か日本人かを問わず、誰がどの土地を所有しているのか明確でないことだ。ただ、外国資本による土地所有だけをターゲットにしてしまっては、世界貿易機関(WTO)の一般協定(GATS)17条がいう「自国の国民・企業と外国の国民・企業を等しく扱う内国民待遇」に違反する恐れがある。これに抵触しないよう安全保障上の例外という考え方で規制する方法もある。「戦時などの緊急時にとられる措置」や「国連憲章上の義務に基づいてとられる措置」といったものだ。しかし、このやり方では規制エリアが狭く、根本的な対策になり得まい。

 より広域に見ていかないと世界標準でいう安全保障上の懸念は払拭できず、結局、日本人が所有する土地も含めて規制しなければならなくなろう。

 一方で、日本国憲法29条の財産権は世界的にも珍しく国内外を問わず「何人にも」保障される。だから安保上、重要な土地に新たに規制をかけたり、購入したりすると、財政面への影響が大きい。対象が広域になるとなおさらだ。現在の日本の財政状況を鑑みると、そうした支出を伴う措置は難しい。

 ただ、国土保全は「ハード整備」だけを意味するものではない。国が果たすべき責務を考えれば、決断しなければならないことである。広域の土地の制限や購入が難しいなら、10年や15年といった時限措置で規制や監視強化等を図ることも一策ではないか。それができるなら、加速化する中国をはじめとした外国資本による土地買収の歯止めになろう。

 土地を所有する国民の多くが自らの世代のことしか考えられなくなっている。高齢になり、子や孫が遠く離れた都市に住むようになると、所有する土地を誰にでも売却してしまう。それが自然な流れになった。ここ10年を見ていると、土地を取得した外国資本が別の外国人に転売することはあっても、日本人が買い戻したという例はほとんどない。このままだと、そう遠くない未来、「日本の領土だが、所有権を外国政府がもつゆえ収用できない土地」が各地であふれてくるだろう。そうした事態が何をもたらすのか、国民はもっと認識すべきだろう。

 今回の法案に加えて、第二、第三の対策を政府が講じていくことを望みたい。

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■取られ続ける技術や土地  日本を守る「盾」を持て
DATA            狙われる機微技術 活発化する「経済安保」めぐる動き        
INTRODUCTION アメリカは本気 経済安保で求められる日本の「覚悟」
PART 1         なぜ中国は技術覇権にこだわるのか 国家戦略を読み解く  
PART 2         狙われる技術大国・日本 官民一体で「営業秘密」を守れ     
PART 3         日本企業の人事制度 米中対立激化で〝大転換〟が必須に 
PART 4     「経済安保」と「研究の自由」 両立に向けた体制整備を急げ   
COLUMN       経済安保は全体戦略の一つ 財政面からも国を守るビジョンを   
PART 5         〝合法的〟に進む外資土地買収は想像以上 もっと危機感を持て   
PART 6         激変した欧州の「中国観」 日本は独・欧州ともっと手を結べ 
PART 7         世界中に広がる〝親中工作〟 「イデオロギー戦争」の実態とは?
PART 8       「戦略的不可欠性」ある技術を武器に日本の存在感を高めよ         

  
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◆Wedge2021年1月号より

 

 

 

 

 

 

 

 


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