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2019年9月25日

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國分俊史 (こくぶん・としふみ)

多摩大学大学院教授

専門は安全保障経済政策。多摩大学ルール形成戦略研究所所長、パシフィックフォーラムシニアフェローを兼任。経済産業省「電力インフラのデジタル化研究会」委員などを務める。著書に『世界市場で勝つルールメイキング戦略 技術で勝る日本企業がなぜ負けるのか』(共編著/朝日新聞出版)。

 報道によれば、政府は国家安全保障局(NSS)に、経済政策の分析や立案を行う部署を新設する検討を行っているという。米中双方による経済的な攻撃が次々と行われている中で、この動きは非常に重要な意味を持つ。 

米国でさえも現行の国家経済会議(NEC)の体制のままでは中国の「経済的な攻撃」に対抗しきれない(PICTURE ALLIANCE/AFLO)

 米商務省は2019年5月16日、米国輸出管理規則(以下EAR)に修正を加え、米商務省産業安全保障局が管理するEntity List(以下EL)に中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)を追加した。これにより、ファーウェイへ製品・部品・サービスの輸出、再輸出、技術移転をする際には、事前に米商務省のライセンスを取得することが必要となり、その申告は原則否定されることになる。

 ファーウェイは18年8月に改定された米国防権限法にて、米国政府については19年8月13日から、米国政府と取引する企業とそのサプライヤーについては20年8月13日から、情報システムでの利用を禁じる中国企業5社の一つにあげられていた。今回はそれに加えた措置であり、これによりファーウェイは米国市場から排除され、さらに米国企業からの部品および技術の供給も断たれつつある。

 19年5月14日には香港企業を含む10社がELに追加された。さらに、6月に中国のコンピューター関連企業5社、8月に原子力関連企業4社と米国外のファーウェイ関連企業46社を追加している。 

 EARは適用範囲が広がっている。昨年の国防権限法の改定に際して、ECRA(輸出管理改革法)という新たな法律が制定され、AI、遺伝子工学、顔認証、音声動画操作技術など14分野47カテゴリーが暫定的に「新興技術」として指定された。これらの新興技術もEARに追加されたため、そのうち、米国の知的財産や補助金を活用したもの、米国の研究機関や企業との共同研究によって開発したものは全てEARの対象となる。

 この運用は8月13日から開始されるが、それに該当しない技術を探す方が難しい。また、EARに指定された技術情報は”NIST sp800-171”という技術体系で構築された情報システムで管理することを義務付けられ、企業は情報システムの再構築も迫られる。

サイバー攻撃でデータを株価を下げて中国企業が買収

 こうした経済的な「攻撃」はEconomic statecraft(エコノミックステイトクラフト、ES)と言われ、日本企業にも大きな影響を与える。そして、これは米国だけが行ってきたわけではない。中国もこれまで米国に対する同様の「攻撃」を行ってきた。

 15年末、中国企業の三安光電がドイツの半導体製造装置メーカーAixtron(アイクストロン)への大量発注を突然キャンセルし、株価を約40%急落させた。その後、中国系投資ファンドの福建芯片投資基金(FGC)が株価低迷にあえぐAixtronの買収を発表した。

 この半導体技術は米国の地対空ミサイル防衛システム「パトリオット」のアップグレードに使われている技術だ。そのため、当時のオバマ大統領は安全保障上の懸念からAixtronの米国子会社の買収を禁止する大統領令に署名した。結果、ドイツ政府の認可も不透明となり、FGCは買収を見送った。その後、三安光電とFGCには中国政府系ファンドの厦門投資公司の資本が入っており、両者は連携して買収を画策していた疑いがあると報じられた。

 18年12月には元米国家情報長官などを歴任したマイケル・マコネルが来日し、先進的な環境技術を有していた米国企業がサイバー攻撃によって資材発注データを改竄されて売上計画に到達せず、業績が下がったところを中国企業に買収された事例が報告された。

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