5月15日、米国商務省はHuawei(ファーウェイ)に対する米国企業の輸出を政府の許可の下に置く措置を発表した。Huaweiとその関連会社を「エンティティリスト(Entity List)」に掲載することを発表したのである。その根拠は、Huaweiが「米国の安全保障と外交政策の利益に反する活動に関与している」ことにあるとしているが、そこで言及されている具体的な事例は米国の対イラン制裁にHuaweiが違反した嫌疑である。その根拠は何でもいいのであって、「エンティティリスト」に掲載することによって、Huaweiに対する米国企業による部品と技術の供給を政府の許可の下に置き、規制することにしたのである。
Huawei製品には、バックドアが仕掛けられており情報が窃取される、という強い懸念がある。中国政府はHuaweiを庇護しようとしているが、中国政府とHuaweiの間には長年の結びつきがある。Huawei創業者でCEOの任正非は人民解放軍出身であり、同社は政府の支援の下で成長した。そして、2017年の法律によりHuaweiその他すべての企業と個人は情報機関と協力すべきこととされている。
これまでも米国は、5Gをはじめ国内の通信ネットワークからHuaweiを排除する措置を講じて来た。同盟国にも同様の措置を働きかけて来た。しかし、今回の措置は、これまでとは質的に異なるエスカレーションである。5月21日付けのフィナンシャル・タイムズ紙社説‘The US is seeking to constrain China’s rise’は、その狙いについて、次のように観察している。「今回の措置は、米国と中国のハイテク・セクターを切り離し、この世界的産業を分断することになる。これは習近平の中国は悪性のアクターであり、その技術は米国のそれを凌駕しつつあるというトランプのホワイトハウスだけでなく米国の安全保障の専門家に浸透しつつある見解を反映するものである」、「米国の措置は中国の台頭を抑え込む企てのように見える。世界的な競争力をつける一方、携帯電話とネットワーク機器の双方を米国のサプライヤーに頼る中国のハイテク企業を潰すことを目論むもののように見える」。的確な観察だと思われる。
輸出規制の意図は、ブロードコム、クアルコム、グーグルなど米国企業からの半導体やソフトの供給を遮断してHuaweiを潰すとまでは言わないまでも、その勢いを削ぐことにある。商務省の発表後、グーグルは基本ソフトandroid、アプリ配信サービスgoogle play、動画投稿サービスYouTubeを含むソフトや技術的サポートの提供を打ち切った。さらに、日本、英国などの大手携帯会社は、続々とHuawei製品の新規予約を停止するなどしている。
他方、上記のフィナンシャル・タイムズ紙社説は、今回の措置は計算間違いでいずれ失敗するのではないか、と見ている。HuaweiのCEO・任正非は強気のようである。技術には自信があるようである。昨年5月、中国のハイテク企業ZTE(中興通訊)に米国企業からの部品供給を遮断する措置を取って破綻寸前に追い込みながら奇怪なUターンを演じてこの措置を解除した前歴がトランプ大統領にはあるが、その際、ZTEは10億ドルの罰金を支払い、米国の監視官の同社の施設への立ち入りを認め、経営陣を刷新することに応じた。しかし、任正非はそのような取り引きには応じないとも言っている。そうだとすれば、この措置はかなりの期間続くかも知れない。そうなると、Huaweiが自助努力でもって米国から独立した独自のサプライチェーンを築くことはあり得ることであろう。
他方、タイミングから見て、今回の措置は貿易交渉で中国に圧力をかけるための急拵えの手段だった可能性は十分あり、貿易交渉の成り行き次第でトランプ大統領は解除するかも知れない。実際、大統領はHuawei問題を米中貿易交渉に含め得ると示唆している。また、収益を圧迫される関係の米国企業がホワイトハウスに解除を働きかけることが予想される。トランプが何時までこの措置を続けるかには判らない面があるように思われる。
仮に今回の措置が撤回されるようなことがあったとしても、Huaweiの安全保障上の懸念が何ら払拭されていないのであるから、当然、従来の規制は残る。そして、いつでも米国が恣意的にHuaweiへの規制を強化し得るという事実が明らかになったことで、各国企業はHuaweiとの取引に慎重にならざるを得なくなるだろう。Huaweiをめぐる米国と中国の熾烈な争いはまだまだ続く。
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