歴史学者のジェニファー・ミッテルシュタット教授が、ニューヨーク・タイムズ紙に2月2日付で掲載された論説‘Why Does Trump Threaten America’s Allies? Hint: It Starts in 1919.’で、トランプ大統領は1919年に国際連盟への加盟に反対した「主権主義者(sovereigntists)」の系譜に位置づけられる、と指摘している。概要は次の通り。

歴史家は保守主義者を反共主義者、国防タカ派、ネオコンの三つに分けて見てきたが、トランプはこの三つのカテゴリーにはうまく収まらない。トランプを孤立主義者と捉える見方もあるが、トランプは主権主義者である。
米国の政治に主権主義者が登場したのは、1919年のことである。第一次世界大戦前にさかのぼるグローバリゼーションの高まりがあり、第一次世界大戦後に超国家的政府である国際連盟ができた。グローバルな貿易や移民を唱道する者たち、植民地独立運動家、黒人の国際主義者、社会主義者、共産主義者、リベラルなキリスト教信者は世界的な統治の仕組みが新たに誕生したことに喝采を送った。
一方、そうした考えを軽侮し、強く反対した者たちもいた。それが米国における主権主義者の運動の始まりである。「絶対反対派」と呼ばれる一群の上院議員たちは米国が国際連盟に加盟することを阻止した。草の根の愛国運動、退役軍人、プロテスタントの原理主義者たちがそれを後押しした。
こうした主権主義者は、その後、第二次世界大戦への参戦、国際連合・国際司法裁判所・北大西洋条約機構(NATO)への米国の加盟、パナマ運河のパナマへの返還などに反対してきた。
長年の間、国際的な統治の仕組みを米国の力を投射するツールと見る者と、米国の自律性を損なうものだと捉える者との間に繰り返し争いがあったが、主権主義者にとってトランプは最も影響力の強い唱道者である。トランプが行ってきた、国連、NATO、貿易や気候変動についての国際条約への攻撃、移民に対して国境を守ろうとする熱意は、まさに主権主義の表れである。
トランプ政権下で、主権主義は力を増して行くであろう。プロジェクト2025(注:シンクタンク、ヘリテージ財団によるトランプ政権への政策提言)は「米国の憲法、法の支配、米国民の主権を害する国際組織や国際条約は、改革するのではなく、破棄すべきだ」と指摘する。
主権主義者の中で最も強硬な者は、必要であれば国連から脱退することも辞さない。トランプ政権は、世界保健機構(WHO)からの脱退の意思を示し、移民をほぼ禁止しようとしている。NATOを弱体化させ、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)のような多国間貿易協定に反対しそうである。モンロー・ドクトリンの時代のように西半球を支配することを目指しそうである。