トランプが主権主義に基づく政治を推し進めていくことは、世界に存在する似た政権に力を与えることになる。英国の欧州連合(EU)離脱は、潜在的な他国のEU離脱の先駆けとなるかもしれない。ヨーロッパ中の右派政党は、政権の座に就いたならばEU離脱を考慮するであろう。
そうした仲間の国を探し、新たな個別の関係を構築していくことが見込まれる。国際関係は、中央の力が弱まり、手に負えない時代を迎えそうである。第二次世界大戦後、ほんの数年前までは共有されていた原則とその運用が国際関係を支えていたが、その力は落ちていきそうである。
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国際機関でなく、二国間でディール
この論説は、異端、破天荒と見えるトランプの行動の根っこに「主権主義者(sovereigntists)」の考え方があると指摘する内容である。ここで主権主義とは、国家主権が国際的な枠組み、超国家的枠組みによって制約されることに反対する考え方のことである。
米国の各政権を「国際的な統治の仕組みを米国の力を投射するツールと見る者と、米国の自律性を損なうものだと捉える者との間の争い」という観点から見ると、トランプ政権が「国際的な統治の仕組みを米国の自律性を損なうものだと捉える者」による政権であることは間違いない。
確かに国家主権に重きを置こうとすれば、国際的な枠組みは邪魔な面がある。行動が制約され、貢献を求められ、国内の取り扱いに口を出される。さらに、国際機関であればマネージメントが気にいらない、重点分野に違和感がある、といった点も出てこよう。
ところで一口に国際的な枠組みと言っても、さまざまなものがある。一方の極に国連のような普遍的な国際機関があり、他方の極に二国間の協定や取り決めがある。先に述べたような主権主義者から見ての国際的な枠組みの問題点に鑑みれば、主権主義者の敵意が最も強く向けられるのは、前者であろう。
そう考えると、第二期トランプ政権で危機にさらされるのは普遍的な国際機関となる。WHOや人権委員会からの脱退は序の口に過ぎないかもしれない。これら以外の国際機関にも脱退の波が及んでも不思議ではない。国際機関には、義務的な分担金と任意的な拠出金とがあるが、主権主義者の目から見れば、その多くは無駄で不必要なものと映る可能性がある。
貿易分野で言えば、トランプが選好するのは二国間の取引であろう。トランプは、カナダとメキシコとを「トランプ関税」の最初の標的にしたが、三者間の枠組みである米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を見直して、一方でカナダと、他方でメキシコと個別に取引をすることの方が、トランプの性には合っているのであろう。
