2月11日、トランプ大統領はAI(人工知能)の研究開発を強化することを指示する大統領令に署名、「米AIイニシアティヴ」を発表した。トランプ大統領は2月5日の一般教書演説でも、AIにおいて米国のリーダーシップが継続することが米国の経済および国家安全保障を維持する上で最高に重要だ、と強調していたが、それを肉付けしていく動きと言える。
米AIイニシアティヴは、次の5つの骨子を含む。(1)AIの研究開発への投資の強化、(2)AIに関するリソースの解放:連邦政府が持つAIに関するデータや技術を米国のAI研究開発者に利用可能にさせる、(3)AIに関するガバナンス基準の設定、(4)AI研究開発者を増やす、(5)AIの研究開発を後押しする国際的環境を促進;米国のAI産業に対し市場を開放させていく;米国のAI技術の戦略的競争相手に対する優位を守る施策を講じる。
トランプは大統領指令の中で「米国のAI技術を、戦略的競争相手や敵対的国家がこれを取得しようとする企てから守る」と述べている。 2月11日のホワイトハウスの発表は、「米国はAIの分野で先駆者となりリーダーとなることで莫大な利益を得てきたが、世界中でのAIイノベーションのペースが高まる中、我々は手をこまねいているわけにはいかない。我々は、アメリカ人の創意工夫がAIを前進させ続け、米国の価値を反映し、アメリカ人の利益のためになるようにしなければならない」としている。いずれも、名指しはしていないが、当然、中国を強く念頭に置いていることは明白である。AI技術等の輸出強化を進める方針である。
トランプ政権がAIの分野で中国との競争に躍起になるのには、もっともな理由がある。第一に、言うまでもないことであるが、AI技術は今後の軍事技術にとり、死活的に重要な役割を果たすことは確実だからである。第二に、それにも拘わらず、米国のAI技術への投資は、中国と比較すると圧倒的に不足している。米ブルッキングスの2月12日付けブログ記事‘Assessing Trump’s artificial intelligence executive order’は、中国は今後10年で1500億ドルをAI技術の開発に投じる一方、米国は公開されている分は年に11億ドルに過ぎない、と指摘する。第三に、2月18日付けのワシントン・ポスト紙の社説‘The Trump administration sounds an alarm bell as China forges ahead on AI’なども問題提起しているが、米国のAI技術開発は民生に偏り、軍事利用については閑却しているきらいがある。これは、ペンタゴン(2月12に日AIに関する独自の報告書を発表している)を除く官庁にも、民間企業にも当てはまる。上記ワシントン・ポスト社説によれば「米国のAI開発者は、米軍を助けることよりも、自動運転技術の開発に照準を合わせている」。
AIをはじめとする米中の技術競争は、今や両国の「生存競争」となりつつあるといって過言ではない。しかし、AIをめぐる米中競争は、米国、ひいては西側にとり必ずしも楽観できないと思われる。
米国は、今後、中国へのAI技術等の輸出規制に加え、同盟国やパートナー国に対しても戦略的競争相手や敵対国家にAI技術を渡さないよう、強く働きかけてくるであろう。昨年成立した「国防権限法2019」に含まれる、輸出管理改革法(ECRA)は、「米国の国家安全保障にとって重要な新基本技術(AIはこれに含まれると考えられる)」を、「外国への新基本技術の拡散の制限に関して課せられる輸出規制の有効性」を勘案しつつ、米国からの輸出と米国への再輸出を規制し得ると定めている。
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