シリアのアサド政権崩壊により、ロシアのプーチン政権が中東のみならず、アフリカ諸国における権益も失う瀬戸際に立たされている。ロシアが自国軍を駐留させるシリア国内の基地は、ロシアが周辺諸国に私兵集団「ワグネル」や軍部隊を派遣するための拠点として活用されてきたためだ。
プーチン政権はこれまで〝テロリスト〟と呼んできたシリア反体制派の呼び名を突然改め、基地の権益を維持するために必死の交渉を進めているが、アサド政権下と同様の活用ができるとは考えにくい。ロシアはソ連時代からシリアの軍基地をめぐる権益を有していたが、自ら始めたウクライナ侵攻が3年近くにも及ぶなか、その貴重な利権を手放しかけている。
ソ連時代からの権益
「シリアにわが軍が駐留し続けるには、相手国の利益にかなう〝何か〟をしなくてはならない」
ロシアのプーチン大統領は12月19日に行われた大規模記者会見で、シリアで自国軍が駐留する2つの軍事基地をめぐる見通しをそう説明した。水面下で、シリアの暫定政権側との交渉が本格化している状況を浮かび上がらせた。
プーチン氏は「(シリアの)大半の地域では、わが国の軍がとどまることを希望している。しかしわからない。よく考えねばならないだろう」とも述べるなど、あいまいな態度に終始した。
しかしプーチン政権にとり、シリアの2つの基地は極めて重要な意味を持つ。
ロシア海軍が駐留するタルトゥース海軍基地は、ウクライナ南部クリミア半島のセバストポリを除けば、ロシアが現在国外で拠点として確保する唯一の海軍基地とされる。1971年に建設された同基地は、ソ連時代は地中海で展開するソ連海軍の補給・修繕拠点として使用され、ソ連崩壊後もロシア海軍が利用し続けた。その重要性が各段に上がったのは、2008年にロシア・グルジア(現ジョージア)間で起きた戦争の後だとされる。