このように、米国は中国による知的財産権の窃盗だけでなく、ビジネス取引やサイバー攻撃を駆使した株価操作による企業買収、米国の税金からなる研究投資の恩恵を受けた研究者の中国召還など、なりふり構わぬ技術盗用で実現を目指す「中国製造2025」を看過できなくなったのだ。
米中双方のESが激化する中で、米国はESの体制の再構築を始めた。
今年3月末、筆者は米国家経済会議(NEC:National Economic Council)の経済制裁担当ディレクターにインタビューした。NECは大統領の経済ビジョンを実現するための機関で、国内経済と国際経済の二本柱で構成されており、国際経済は経済政策を活用して米国にとって有利な安全保障環境を構築することを主なミッションとしている。
メンバーは国家安全保障会議(NSC:National Security Council)を兼任する者とそうでない者で構成され、副大統領、国務長官、財務長官、農務長官、商務長官、住宅都市開発長官、運輸長官、エネルギー長官、保健福祉長官を常勤とし、専属の事務局員数十人が籍を置く。経済制裁担当ディレクターによれば、現行のNECでは中国のESには適切に対抗できておらず、機能拡充に取り組み始めたという。
そもそもNECは1993年、冷戦終結後の世界では軍事力だけでなく経済ツールを効果的に活用した安全保障政策が有効になる、という思想のもと、クリントン政権下で創設された。創設当時のNECでは、CIAのソ連担当局員に新たな役割として経済情勢分析を担わせ、以降、世界各国の経済制裁対象にすることが有効な個人や組織を調査してきた。
NECは軍事戦争への発展リスクを高める国家全体への経済制裁だけでなく、政策に影響力を持つ者を狙ったピンポイント型の経済制裁を発動し、相手国の政策や行動を変更させることが有効と考えている。事実、18年9月、中国がロシアからSu35戦闘機とS400地対空ミサイルシステムを購入したことに対し、対ロシア制裁に違反したとして中国共産党中央軍事委員会で装備調達を担う装備発展部と、その高官1人を制裁対象にし、装備発展部を米国の金融システムから排除し、高官の米国資産を凍結した。
NECのインテリジェンス機関との連携は経済制裁にとどまらない。対米外国投資委員会(CFIUS)の改定で新興技術の流出リスクを特定できるようにした。また、中国などが技術情報を知るうえで、アライアンス、取締役の派遣、指揮権や監督権を発動できるポストの獲得が常套(じょうとう)化しているためこれらも全て申請対象にし、インテリジェンス機関の調査能力をフル活用している。CFIUSは事前に審査しなかった案件も訴追できることから過去の資本提携も調査し、売却命令も発動され始めている。