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2021年1月18日

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鶴岡路人 (つるおか・みちと)

慶應義塾大学総合政策学部准教授

慶應義塾大学総合政策学部准教授。1975年生まれ。98年慶應義塾大学法学部を卒業。ロンドン大学キングス・カレッジで博士号取得。防衛省防衛研究所主任研究官などを経て現職。東京財団政策研究所主任研究員を兼務。近著に『EU離脱』(ちくま新書)。

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トーステン・ベナー

グローバル公共政策研究所(GPPi)所長

グローバル公共政策研究所(GPPi)所長。1973年生まれ。独ジーゲン大学、英ヨーク大学、米ハーバード大学等で国際関係を学び、2003年にGPPiを創設。国際秩序や米欧関係に加え、欧州・中国関係を研究。独メディアに加え、英フィナンシャル・タイムズ等でも寄稿多数。

[執筆記事]
対中政策の厳格化に慎重なメルケル首相 (SEAN GALLUP/GETTYIMAGES)

イントロダクション

戦略的自律を目指す欧州
試される日本の外交力

文・鶴岡路人  Michito Tsuruoka(慶應義塾大学総合政策学部准教授)

 欧州の対中姿勢、認識が急激に厳しくなっている。ドイツをはじめとする欧州企業の買収攻勢による技術流出への懸念や、香港や新疆ウイグル自治区などでの人権問題の悪化などが影響した。これらに、新型コロナウイルス感染症に関する初期対応の遅れや情報隠蔽が加わった。さらに、「戦狼外交」と呼ばれる、恫喝をも含む中国による強硬な対外姿勢が、欧州の反発を強める結果になった。

 パワーバランスの変化という構造的要因もあるが、中国自身もオウンゴールを重ねた。続くベナー氏の論考が指摘するように、欧州におけるトランプ政権への反発は、中国にとっては、欧州を懐柔する絶好の機会だった。しかし、中国はこれを完全に逃した。

 それでも、中国が欧州を完全に「失った」と考えるのは早計だろう。というのも、中国の目的はもはや、欧州全域に笑顔を振りまき、好かれることではないようにみえるからである。今日では、狙いを絞り、欧州の価値を損なってでも中国との安定的関係の維持を求める指導者や言論人を確保することを目的としているのではないか。その意味で、勝負はまだこれからである。

 とはいえ、欧州の対中姿勢、認識の悪化は明確だ。日本では「欧州は中国に甘い」と批判され続けてきた。欧州と日本の対中観が完全に一致することは、今後もないだろう。それでも、欧州の変化を正面から捉える必要がある。他方で、日本では欧州における中国批判をことさらに取り上げ、中国に対して「それ見たことか」と高みに立ちたい心情も同時に見え隠れする。欧州の対中観は急激に変化しているものの、一枚岩で反中になったわけではない。日本の視点でも、双方をバランスよく見据える必要がある。

 自らの価値や利益を脅かす中国の行動には対峙しつつ、安定した経済関係を維持したい。この二つをいかに両立できるかに悩んでいるのが欧州であり、最も注目されるのはドイツの行方である。同様の難題に日本も直面している。

 トランプ政権下で米欧関係が停滞するとともに米中対立が深まり、さらに欧州・中国関係も悪化する中で欧州は、自律性の向上を目指すことになった。「戦略的自律性」がキーワードであり、外交・安全保障面では対米依存の低減が課題となった。これは、自らの負担軽減の観点からトランプ政権が求めたものでもあった。加えて、コロナ危機を受け、医薬品などのサプライチェーンの中国依存が露呈した。その結果、サプライチェーンの多角化による欧州経済のレジリエンス(強靭性)確保が必要とされ、対中依存の軽減が同時に求められるようになった。これ自体は日本の利益とも合致しそうだが、欧州が内向き、保護主義的になる可能性については注視していく必要があろう。

 バイデン次期政権下では、中国に関しても米欧協力が進展する可能性がある。中国との競争の主眼は、軍事であると同時に、先端技術や経済、まさに経済安全保障をめぐるものであり、米国も欧州を味方に付ける必要がある。それに日本が参画するのみならず、アジェンダ設定を含めて、いかに日本が主導権をとることができるか。日本外交の力量が試されそうだ。

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