12月3日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙編集長のフィリップ・スティーブンスが、中国の挑戦は米国よりも欧州にとってより大きな脅威であることを指摘し、米国と組むべきことを論ずる一文を書いている。
スティーブンスは、中国が世界を支配することを望んでいる限り、米国にとって挑戦は深刻であり、欧州にとっては存立に係わる、米国は大国間のゲームの戦い方を知っているが、力がルールに置き換わる中国の設計による世界では欧州は生き残れない、と述べる。
スティーブンスの論説の趣旨に異論はない。自明であるが如き事柄がこのタイミングで書かれたことに特段の理由があるのか否か明らかでないが、この論説に言及のある「a new EU-US agenda for global change」と題する欧州委員会のペーパーは、12月10‐11日のEU首脳会議に提出され承認を得たものである。11月の米国の大統領選挙で、バイデンが次期大統領に選出され、米欧間の同盟関係をより強固なものにして行くことが明らかになったことを受けてのものだろう。ペーパーでは、地球規模の問題として、新型コロナウイルス対策、地球環境・エネルギー問題、技術・貿易問題、そして安全保障と民主主義が挙げられている。
欧州委員会のペーパーは、米欧のパートナーシップを再活性化することを目的としているが、中国の挑戦への対応も一つの柱であるとも読めるらしい。そこには、米欧は、「権威主義の諸国」と「閉鎖された経済」に対抗して、西側の価値を改めて主張する「グローバルな同盟」の中に吸収すべきことが示唆されているとのことであるが、そのことの意味は必ずしも明らかではない。
米欧間の違いには様々あるが、すべて「グローバルな同盟」に容易に吸収出来るものでもないだろう。米欧間にはビッグ・テック企業を対象とするデータ保護、競争政策、課税政策のような容易に発火点となり得る問題がある。
WTOの再生を含む貿易政策も調整を要する。米欧間で中国に対する一体的なアプローチを打ち出すにしても、この種の問題は避けて通れず、中国に対する一体的なアプローチの前提にすらなり得よう。
一つ敢えて付け加えることがあるとすれば、「グローバルな同盟」を言うのなら、欧州は中国の挑戦を欧州という限られた戦場で受けて立つのではなく、視野をインド太平洋に広げることが求められるであろう。既に、フランスは2018年以来インド太平洋に対する関心を高めて来ている。ドイツは昨年9月にインド太平洋に対する政策指針を公表し、この地域でのグローバルな規範を擁護することにも関心を表明した。更に去る11月13日、オランダもこの地域に対する戦略を公表したが、「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンの拡散は歓迎すべき傾向である。
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