最近の中国の行動に関して、世界から批判の目が向けられている。直近では香港特別行政府における香港国家安全維持法の施行により、香港紙「蘋果日報」を創業した黎智英氏や活動家の周庭氏を違反容疑で逮捕。また以前から指摘されている新疆ウイグル自治区での中国政府の行為は「人権侵害」という言葉を超えた形の、ある種の民族殲滅のような行為がなされている。外交誌フォーリンポリシーによれば、100万人超のウイグル人を強制収容所や刑務所へ収監し思想改造や自己批判を強要。虐待、拷問、レイプに加え、ウイグル人女性への組織的な不妊手術の実施などの蛮行もまかり通っているという(“The World’s Most Technologically Sophisticated Genocide” July 15, 2020)。これに加えて南シナ海の領有権や海洋権益の一方的な主張、日本の領土である尖閣諸島への継続的な接続水域や領海への侵入行為はいうまでもない。
これらに対して、日本側の感覚からすると、アメリカ側はようやく中国に明確な形で対抗意識を示すようになったという感がある。2018年10月4日、中国に「断固として立ち向かう」としたペンス副大統領の歴史的演説に続いて、今年7月23日には、ポンペオ国務長官が極めて厳しい姿勢で中国と対峙する演説を行ったことがそれだ。11月の米大統領選で、トランプ政権の継続になろうとバイデン政権の誕生になろうと、手法や表現は異なっても、アメリカの中国に対する強い対決姿勢は変わらないだろう。
しかしながら、そうした攻勢に対して中国側にひるむ姿勢は見えない。中国国内には実際には様々な意見があると思われるが、中国政府の姿勢を支持する人たちは、1840年のアヘン戦争以降、欧米(場合によっては日本)によって、自らの国土と民が「不法」に犯されてきたという政府の主張を受け入れている。そして中国は「あなたがたのような(悪い)ことはしていない」と主張しつつも、強気の姿勢はその報復であることを暗示している。それは中国のナショナリズムを高め、現在の中国世論の基盤となっている。
そして中国は、現時点では声高には述べていないが、アメリカが中国の拡張主義に対して非難するのであれば、それに対する十分すぎるのほどの反論を用意しているはずだ。なぜなら、アメリカがイギリスから覇権国の地位をとって代わろうとしていた19世紀後半から20世紀初頭の行為は、現在のアメリカ主導の世界秩序に立ち向かおうとしている中国と、たぶんに重なるところがあるからだ。
アメリカが非難する中国の南シナ海領における領有権主張に対しては、中国はアメリカが1898年の米西戦争以降に行った一連の行為を取り上げるだろう。アメリカはこの戦争までの間の国内での領土拡張を、自らを正当化する「明白なる天命」とした。そしてアメリカ先住民を時に仲たがいさせ、時に虐殺して西へ西へと領土を拡張してきたことは広く知られるところである。
そして1890年に国内のフロンティアがなくなると、今度はスペイン領である南隣のキューバの独立を助けるという名目で、スペインと戦争の火ぶたを切る。戦争自体はアメリカの楽勝で、キューバはどうにか独立にこぎつけたものの、アメリカはキューバへの内政干渉の権利を保持するプラット修正条項を入れ込んで、その後長く同国を実質的な支配下においた。またその戦争では同じくスペイン領だったフィリピンを獲得し、長い間独立を認めず、多くの人を拷問し虐殺した。中国は新疆ウイグル自治区への対応をアメリカから非難されることに対して「どれほどのことが言えるのか」と笑うだろう。
米西戦争の際には、ハワイ共和国を併合して太平洋の戦略拠点であるこの島を手にした。中国が南シナ海の島々を手にしたように。まずはアメリカ人を大量に住まわせて次第に主権を奪い、女王リリウオカラーニを廃位に追い込んでの領土獲得であった。
こうした一連の行動をとってきたアメリカが、中国からそれらを指摘されたときには、どのように説明するのだろうか。一方中国は、それでもまだ言い足りないと思ったときには、アメリカがパナマ運河を手にするべく、いかにして中米のコロンビアから実質的にパナマを手にしたか。テキサスをどのようにしてメキシコから奪いとったかにも言及するだろう。アメリカはその後「自由」「民主主義」「人権」を掲げて世界に君臨するが、中国側からすれば笑止千万ということになるのだろう。