WEDGE REPORT

2020年6月23日

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木村正人 (きむら・まさと)

国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任し、2012年独立。近書に『欧州絶望の現場を歩く』(ウェッジ)。
 

 「英中黄金時代」を一時、高らかに謳い上げ、米国の反対を押し切って中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の5G参入を限定容認した英国が対中融和政策を百八十度転換した。中国が新型コロナウイルス感染拡大による混乱に乗じて「香港国家安全法」の導入を強行しようとしているためだ。欧州連合(EU)離脱を控える英国で何が起きているのか。ロンドンから報告する。

今年1月、英国市民権の付与を求めてロンドン市内で行われた香港人のデモ (NURPHOTO/GETTYIMAGES)

 自らも新型コロナに感染して、死線をさまよったジョンソン英首相は6月3日、英紙タイムズと香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストに、香港問題について「私たちは見て見ぬ振りをするのではなく責務を全うする」と寄稿した。

 中国が香港国家安全法の導入を撤回しないのなら、英政府は1997年の香港返還前に生まれた香港人285万人へのビザ発給権を拡大し、英国滞在期間を6カ月から1年に延長するというのだ。状況が悪化すれば英国籍を与えることも視野に入れての発言だ。

 英国籍を与えるというのは香港に対する中国の主権を否定したに等しい。さらに超党派の英外相経験者7人が、90年代の旧ユーゴスラビア内戦と同じ国際連絡グループの設置を求めたため、中国外務省は「香港は中国の一部。内政干渉をやめないと深刻な結果を見ることになる」と猛反発した。

中国との「良好な関係」を
志向してきた英国

 ジョンソン首相は、なぜここまで中国に対して強硬な態度を取るようになったのか。近年、中国にとってインフラ経済圏構想「一帯一路」の西端に位置する英国は、ガードが堅い米国と違って、国際金融センター、大学の研究開発力、ICT(情報通信技術)へのアクセスが容易なソフトターゲットだった。

 キャメロン政権時代、英国は米国の忠告を無視して先進7カ国(G7)の中で抜け駆け的に中国のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を表明し、人民元が国際通貨基金(IMF)特別引出権の通貨バスケットに採用される流れをつくった。

 日和見主義者のジョンソン首相も今年1月、EU離脱後をにらみ中国と良好な関係を保とうと、機密情報を共有する米英など5カ国で構成される「ファイブアイズ」の結束を乱してまで、ファーウェイの5G参入を周辺機器に限って認めた。

 香港問題についても、香港から大量の難民が押し寄せるのを恐れて、香港人には英国滞在を6カ月しか認めない英国海外市民旅券しか発給してこなかった。中国のメンツを立てる外交的配慮もあった。

 しかし中国・武漢発のパンデミックと香港国家安全法の強行で事情は一変した。

 英国はコロナ危機で欧州最大の被害を出し、死者は4万人を超えた。中国が全ての情報を開示していればこんな惨事にはならなかったという恨みが英政官界に渦巻く。一方、中国はネット上に偽情報を拡散させる「トロール部隊」を駆使して、英政府の感染症対策は「最悪」と不満を焚き付けている。

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