WEDGE REPORT

2020年4月22日

»著者プロフィール
著者
閉じる

木村正人 (きむら・まさと)

ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任。2012年独立。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)

 新型コロナウイルスの巨大津波が欧州を襲っている。イタリアやスペインで医療崩壊が起き、命の選別を迫られている。スペインでは老人ホームが見捨てられ、ベッドから亡骸(なきがら)が見つかった。一体どこまで死体が積み上がるのか。この津波が過ぎ去ったあと何が残るのか。外出禁止令下のロンドンから報告する。

ロンドンの大型イベント施設に急遽開設された「野戦病院」
(JUSTIN SETTERFIELD/GETTYIMAGES)

 3月23日夜、ジョンソン英首相は国家非常事態を宣言し「世界中が目に見えない殺し屋の壊壊力を目の当たりにしている。今晩から原則として外出してはならない」と命じた(4月5日夜、病院に搬送された同首相は、酸素吸入を受け、ICUで治療を受けている)。外出が許されるのは食料品や生活必需品の購入、医療、日々の運動に限られる。

 医療現場だけでなくスーパーでも人手が不足し、通路に商品が無造作に積まれている店もある。入店制限と2メートルの距離を置いて並ばなければならないため、苛立(いらだ)った客に怒鳴られる店員もいる。生活を支えるキーワーカーは感染の恐怖に耐えて働いている。

ロンドンの郵便局に間隔を空けて並ぶ人々 (MASATO KIMURA)

 記者会見はテレビ会議で行われ、街頭取材は長さ3メートルのマイクブームを使って行われる。さらに1~2メートル後退(あとずさ)りしてインタビューに応じる市民もいる。人に会えないことがこれほど辛(つら)いとは想像もしなかった。

 ナチスドイツの激しい空爆を受けた第二次大戦下でも英国は空襲警報が鳴るまで普段通り暮らし続けた。爆弾の破片が飛び散る中、若者は夜な夜なダンスホールに出かけた。空襲から一夜明ければ瓦礫(がれき)の中で住民が紅茶をふるまった。核の恐怖に慄(おのの)いた冷戦下も核攻撃と放射能から逃れる秘密の地下トンネル司令部を建造して耐え抜いた。

 しかし今回は様子が異なる。外出禁止令は英国史上初。世界で最大1億人の犠牲者を出したとされる1918年のスペインかぜに匹敵するパンデミックが相手だからだ。

 2009年の新型インフルエンザ・パンデミックを機に英国でも入念に行動計画が練り上げられた。ワクチンも治療法もない。人類に与えられた武器は今のところ、手間と金がかかり偽陰性・偽陽性が出る不十分なPCR検査と人工呼吸器による対症療法しかない。感染爆発をやり過ごす手段は自己隔離・社会的距離・集会禁止・休校・都市封鎖の公衆衛生的介入で感染を制御し、重症・重篤患者に集中治療を施せる病床を増やすことに尽きる。

 英国が自己隔離から都市封鎖に追い込まれるまでわずか12日。感染者1人から何人にうつるかを示す実効再生産数は4近くから1近くまで下がってきたが、介入を緩めるとウイルスは息を吹き返す。3週間ごとに介入をどの程度見直すのか判断するのは至難の業だ。

ロンドンを走る地下鉄の車内はガラガラ (MASATO KIMURA)

 ロンドンとバーミンガム、マンチェスターの国際会議場・展示会場に計1万床の「野戦病院」を設け、急を要しない外来を停止して英国全体で3万3000の「コロナ病床」を確保した。軽症者は自宅療養だ。野戦病院に運び込まれた患者の5~8割が死亡、政府の専門家チームによると、全国では最悪2万人が亡くなるという。

関連記事

新着記事

»もっと見る