WEDGE REPORT

2020年4月22日

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木村正人 (きむら・まさと)

国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任し、2012年独立。近書に『欧州絶望の現場を歩く』(ウェッジ)。
 

 12週間にわたる自宅待機を強いられる高齢者や持病のある人150万人を支援するボランティアに75万人以上が応募した。引退した医師1万1000人が現場復帰し、最終年度の看護・医学生2万4000人も隊列に加わる。

 まさに〝戦争〟である。近所に仮設の遺体安置所がつくられた。葬儀係のボランティアを提示され、辞退した友人もいる。

EUの緊縮財政が招いた
南欧の医療崩壊

 欧州はすでに死屍(しし)累々。伊北部ベルガモのICUで働く医師ダニエル・マッキーニ氏は3月7日、フェイスブックで最前線の現状をこう書き込んだ。

 「入院患者はネズミ算式に増え、ICUは崩壊しつつある。気管挿管されICUに運び込まれる人。他の人は手遅れだ。全ての人工呼吸器が黄金に変わる。全員を救うことができないため涙を浮かべる看護師。バイタルサインの表示で決められた運命が分かるのだ」

 重篤患者のうち高齢者より助かる見込みがある若い患者、心血管疾患や糖尿病、慢性呼吸器疾患など持病のある人より持病のない人に人工呼吸器は回される。回復を期待できない人はまず助からないからだ。

 欧州における感染爆発のエピセンターとなった伊北部ロンバルディア州はかつて欧州でもトップクラスの医療水準を誇った。それがアッという間にウイルスの巨大津波にのみ込まれた。

 エビデンスに基づく医療を提唱するGIMBE財団のニノ・カルタベロッタ代表は「新型コロナウイルスから私たちを守る前に医師や看護師を守ることができなければ戦えない。医療従事者に十分な防護具とPCR検査を」と訴える。

 3月末時点でイタリアにおける医療従事者の感染は9512人。全体の感染者に占める割合は9%。60人以上の医師が命を落とした。スペインでも感染者の15%に当たる約1万人の医療従事者が感染した。背景には債務危機後に欧州連合(EU)が主導した緊縮財政がある。

 世界保健機関(WHO)のデータから人口1000人当たりの医師の数を見ると、重債務国スペインは2009年の4.7から翌年には3.7にまで減った。イタリアも同様に2002年の4.4から2009年には3.8まで削減されている。防護具が十分でなかったのは推して知るべしだ。

 ICU病床と人工呼吸器の数は文字通り死に直結する。10万人当たりの重症者用ベッド数はドイツ29.2床、イタリア12.5床、フランス11.6床、スペイン9.7床、英国6.6床の順だ。人工呼吸器はフランス3万台、ドイツ2万5000台、英国5000台、イタリア3000台。

 スペインは多くの自治州に分かれ、国全体で人工呼吸器がどれぐらいあるのか見当がつかないとカタルーニャ州の知人は話す。自動車メーカー、セアト(SEAT)はすでに独自の人工呼吸器を開発して病院に寄付したが、中央政府の承認に手間取った。

スペインの首都マドリードの「野戦病院」で治療を受ける新型コロナウイルス感染者 (DENIS DOYLE/GETTYIMAGES)

 同国のロブレス国防相は「老人ホームが見捨てられ、ベッドの中で入居者が死んでいた」と明らかにし、世界中を驚かせた。老人ホームでは中南米からの低賃金労働者が働く。防護具もなく、大量死で検視も葬儀もできない。移民労働者が逃げ出しても責められようか。

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