WEDGE REPORT

2020年6月23日

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木村正人 (きむら・まさと)

国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任し、2012年独立。近書に『欧州絶望の現場を歩く』(ウェッジ)。
 

 米シンクタンク・ジャーマン・マーシャル財団のアンドリュー・スモール氏は「パンデミックの原因が中国にあるのは間違いない。しかし、それで英政府の責任が免罪されるわけではない。英政府はトランプ米政権のように全責任を中国になすりつける意図はないにせよ、報道機関向けの裏レクで閣僚は中国に激怒していると聞く」

 そこに中国政府への反逆・分離・扇動・転覆を厳罰に処す香港国家安全法という爆弾が投げ込まれた。スモール氏は「全てをほしいままにしたいという独裁主義者の衝動が働いているのは明らか。貿易戦争とコロナ危機で米中関係は最悪。11月の米大統領選で人権問題に厳しい民主党のバイデン前副大統領が当選し、西側の結束を固められたら手に負えなくなる。その前に返還以来最大の懸案だった香港国家安全法にケリをつけようとしているように見える」と分析する。

英国議会内で高まる
対中関係見直しの声

 しかし、英国にとって、国連事務局にも登録された英中共同宣言の当事者として中国の暴挙に沈黙したら、EU離脱交渉の迷走で失われた〝大英帝国〟の国際的な威信は完全に地に落ちる。最後の香港総督を務めたクリストファー・パッテン英オックスフォード大学名誉総長の抗議声明には日本を含む40カ国832人の議員が署名した。

 英国議会でも4月、EU離脱で影響力をふるった保守党内の強硬離脱派・欧州研究グループ(ERG)に続き、中国問題の議論を深めるため中国研究グループ(CRG)がつくられ、英下院外交委員会のタジェンダット委員長(保守党)が議長を務める。

 こうした、議会内に広がる対中強硬派や自由貿易主義者、民主派、人権派の声をジョンソン首相は無視するわけにはいかなくなった。米国との利害も一致したため結局、英政府は中国との関係を大幅に見直すことになり、2023年までに英国の5Gネットワークからファーウェイを排除する方針に転換した。代替策として日本メーカーのNECと交渉を始め、韓国サムスン電子も選択肢に加えたと米ブルームバーグは報じている。

 英外交官として香港返還に携わったマシュー・ヘンダーソン氏は「もともと5Gは安全保障の問題。ファーウェイに参入を認めることが何を意味するかみんな知っている。ジョンソン首相がUターンしたというより、最初から議論の余地はなかった」と話す。

 しかし、英国内のこうした動きを踏まえても、ヘンダーソン氏は香港の将来について、「非常に悲観的だ。今の香港を築き上げるのに何年もかかったが、壊すのは一瞬だ」と言う。スモール氏も「最後の抵抗も『高度な自治』を守るには十分ではないだろう。香港の政治と経済の未来は寒々としている」と嘆く。

 1984年、サッチャー英首相は中国の最高指導者、鄧小平氏と「港人治港(香港人が香港を治めること)」「高度な自治」「現状維持」「五十年不変」を約束する英中共同宣言で合意した。中国は香港返還後も「一国二制度」を50年間にわたって維持することを国際社会に誓った。

「一国二制度」と表示する看板を背に立つ在香港の人民解放軍兵士。中国は、英国からの香港返還後も「一国二制度」を50年間にわたって維持するはずだった (BLOOMBERG/GETTYIMAGES)

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