WEDGE REPORT

2020年6月23日

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木村正人 (きむら・まさと)

国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任し、2012年独立。近書に『欧州絶望の現場を歩く』(ウェッジ)。
 

 英中共同宣言の精神は香港基本法に受け継がれた。香港基本法では国家安全条例は香港立法会(議会)で定めることになっている。しかし2003年の50万人デモで棚上げにされたままだ。「中華民族の偉大な復興という『中国の夢』の実現」を掲げる習近平国家主席にとってアヘン戦争で奪われた香港は「屈辱の歴史」の象徴である。

 習氏は英中共同宣言から30年経った14年に「香港における『一国二制度』の実践」白書をまとめ、「『二制度』は『一国』に従属し、そこから派生するとともに『一国』の中に統一されている」と強調してみせた。香港立法会が自ら国家安全条例を制定しないなら中国政府が香港立法会を機能停止させてでも香港国家安全法を導入する──そんな習氏の筋書きが浮き彫りになる。

 その延長線上に、昨年大規模デモの原因となった中国本土への容疑者引き渡しを可能にする逃亡犯条例改正案や今回の香港国家安全法導入、中国国歌「義勇軍行進曲」を侮辱する行為を禁じる国歌条例制定がある。

 こうした習氏の強硬姿勢は民主派を勢いづけ、香港をチベットや新疆ウイグル自治区と同じ火種にしてしまった。19年11月の香港区議会選挙では民主派が定数の85%を獲得して圧勝し、今年9月の香港立法会選挙でも大躍進が予想される。

 「香港の鉄の女」と呼ばれる香港民主派の民主党・劉慧卿(エミリー・ラウ)前党首は「国際社会が空母や航空機を派遣して香港人を避難させなければならないシナリオもあり得る。平和的に中国を説得できるよう行動を起こせ」と訴える。

 しかし、香港からのそうした勇ましい声に呼応できるとは思えぬほど、〝大英帝国〟を取り巻く状況は厳しい。

 英中銀・イングランド銀行は300年で最悪の不況を予測する。自動車生産台数は一時の目標200万台から118万台に落ち込み、英金融大手HSBCやスタンダードチャータード銀行は中国との取引を重視して香港国家安全法を支持する立場を明らかにしている。政府と金融界の足並みがそろわない。

 コロナの医療・健康対策と、第二次世界大戦を上回る経済縮小が懸念される大恐慌への対策を最優先にしなければならないEUも、中国との正面衝突は避けたい。

 今回の対立は「一国二制度」の約束期限が切れる「2047年問題」の前倒しだ。経済的な悪影響を乗り越えて英国は政官の間で高まる対中関係の見直しを貫けるのか。注目が集まる。

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Part 1     コロナ禍は変革のラストチャンス  デジタル時代に欠かせぬ人事戦略
Part 2     コロナ前に戻る企業は要注意  生産性を高める働き方の追求を
Column   「脱ハンコ」を妨げるクラウド未対応の電子署名法
PART 2 / CASE 1    シリコンバレーで進む「オフィスの分散化」 イノベーションを生むための〝次の一手〟
PART 2 / CASE 2  中国IT企業が手放せない集積と長時間労働で得る生産性
Part 3     採用・研修で起きた新潮流  オンライン化が問う「リアル」の意味

  
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◆Wedge2020年7月号より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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