米中露の対立は、貿易や地政学といった分野だけでなく、「情報」という分野にも広がっている。『アメリカ 情報・文化支配の終焉』(PHP新書)を上梓した学習院女子大学の石澤靖治教授は「インターネットをはじめとした情報技術の革新、そしてドナルド・トランプという米国が覆い隠していた部分を暴露する大統領の登場により、情報における世界的覇権構造は大きく変わった」と語る。世界ではいかなる〝情報戦争〟が繰り広げられているのか。昨今の新型コロナウイルス禍での情報発信や、米大統領選へ向けたトランプ氏の動きとともにインタビューした。
石澤氏は立教大学社会学部卒業後、ビジネス誌の記者を経て、ハーバード大学ケネディ行政大学院大学を修了、ワシントンポスト極東総局記者やニューズ・ウィーク日本語版副編集長を経験した後、学術の世界へとフィールドを変えた。メディアと政治の関わりを中心に研究し、『大統領とメディア』(文春新書)や『総理大臣とメディア』(同)といった著書を出版しながら、専門分野を国際関係や世界での世論形成といったものにも広げていっている。
本著『アメリカ 情報・文化支配の終焉』では、米国が握っていた世論、文化、情報という「ソフト・パワー」における世界支配が、トランプ大統領の就任時期から揺らぎ始めており、そこには大統領選の際に関与したとされているロシアと国際外交で存在感を強くする中国の存在があることを指摘している。「インターネットテクノロジーの進化によって、お金を使わずに大衆に発信ができるようになった。ロシアは情報の覇権をとるつもりはないが、引っ掻き回すことによって米国の信頼をぐらつかせることを狙っている。中国もこの手法を巧みに取り入れている」と石澤氏は解説する。
ロシアは、すでにGDPが韓国よりも低く、正面から戦っては米国に勝てないのが現実。米国の信頼を貶め、プーチン大統領が得意とする直接交渉に持ち込む流れを作っているという。著書では、ロシアが国際的テレビ局「ロシア・トゥデイ(RT)」を設立し、これまで米国のCNNや英国のBBCといった西側諸国による国際報道が主流であったところに、ロシア視点から西側諸国が嫌がる情報を報道している現状を詳述している。
中国については、著書で、国営放送「CCTV」の海外拠点を続々と設置し、世界各国に発信を図る様子を紹介。世界に中国語と中国文化を広げるために世界の大学に設置を進めている孔子学院が、現地の中国人や中国人学生と連動して諜報活動や言論弾圧を展開する猛威をオーストラリアやニュージーランド、米国での事例を絡めながら分析している。