2024年12月23日(月)

Wedge REPORT

2020年6月1日

(Yakobchuk/gettyimages)

 世界中を襲ったコロナ危機は半導体市場にも大きな影響を与えた。一方で、テレワーク、通信量増加に伴うデータセンター投資などの新規需要が増えて、好調な分野も出てきている。半導体市場の現状と、今後の見通し、米中の半導体摩擦の行方などについて、市場調査会社インフォーマ・テックの杉山和弘コンサルティングディレクターに聞いた。

リーマンショック並みの減少

Q コロナ禍で半導体を含む電子機器市場はどの程度の打撃を受けたか。

杉山 和弘(すぎやま・かずひろ)1977年生まれ。2000年にNECに入社、2010年ルネサスエレクトロニクス社へ転籍(ルネサステクノロジー社とNECエレクトロニクス社が合弁でルネサスエレクトロニクス社を発足)し、LSIの製品設計から事業戦略立案業務に従事。16年IHSマーキット入社、19年Informa Tech社へ転籍(Informa Tech社がIHSマーキット社のテクノロジー部門買収により)し、コンサルティングディレクターとして市場分析などを行う。42歳。宇都宮市出身。

杉山ディレクター スマートフォン、自動車搭載の電子機器、産業機器、白物家電は大きく生産を落としたが、ノートブック型のパソコン、タブレット、データセンター、5G(次世代通信網)インフラ、大型テレビは好調を維持している。

 この結果、投資額の大きいメモリ投資が抑制されて、2020年の半導体の設備投資は当初の3%増から2%マイナスに下方修正されてきている。特にコロナ禍の影響でスマホ需要が減少した。電子機器で見ると、3カ月間工場が停止したとすると、前年比6.1%減少し、リーマンショックの時のマイナス8.7%に近いショックになるのではないか。

Q 来年の見通しはどうなるか。

杉山ディレクター 7月まで収束宣言が長引けば、電子機器は12.1%マイナスとなるが、すでに中国などでは回復に向かって工場の操業を再開してきており、そこまでにはならないのではないか。

 半導体はリーマンショック後の2010年には34%成長、その後も市況低迷後には20%以上の成長率に戻っている。今回も不況後の反発は予想以上に大きいという過去の経験から、来年は16%の増加を予測している。

堅調なメモリ需要

Q テレワークの増加なので通信量が増えたことで、伸びている半導体分野があるようだが。

杉山ディレクター 在宅ワーク、外出禁止などで通信量が大幅に増えているのはデータでも明らかだ。在宅勤務開始前と比較すると、ビデオチャットが2倍の増加、中でも3月の1カ月でビデオチャットは10倍も伸びた。ビデオチャット率が最も多いのはノルウェーとオランダで60%、日本は32%。テレワークの増加により、「ZooM」の利用が昨年と比較して700%と大幅に増加、「Microsoft Teams」は120%増えた。

 こうしたことから、データの通信量の急増に対応して、データセンターを拡充する動きが強まり、それに伴うDRAM、NANDメモリの需要が増えている。NANDはサムソンが最も強く、東芝から分社化したキオクシアも得意としている分野で、今後の増産が予想されている。NANDメモリは昨年の価格低下から市場成長し、投資し易くなったことに加え、今回の需要増から、成長が期待されている。同社はNANDメモリを増産するため、コロナ禍にもかかわらず三重県四日市市に22年末完成を目指して工場増設の発表をしている。

Q コロナ禍の影響で期待の大きい5Gスマホの発売への影響はあるか。

杉山ディレクター 本来なら秋には発売されるはずだったようだが、アップルの5Gスマホの発売は年末か来年に延びるのではないか。コロナ禍の影響で5Gインフラを構築するまでに時間が掛かりそうだ。

 今年のスマホ販売は、低価格機種が11.7%、中位機種が5.5%、高位機種が5.8%それぞれ減少するが、来年は17%、21%、17.7%それぞれ増加するとみており、来年以降に回復するとみている。

中国が孤立するリスク

Q 中国での半導体の生産は回復してきているか。

杉山ディレクター コロナ禍による工場稼働停止から回復に向けて対応中だ。今月中には、ほぼすべての工場で稼働を再開できるのではないか。しかし、半導体は自動化されている前工程企業は影響がないが、人手の必要な後工程企業はまだ、60~70%程度の稼働になっている。

Q 米商務省は5月15日に中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)に対する事実上の禁輸措置を強化すると発表し、外国で製造した半導体でも米国製の製造装置を使っていればファーウェイに輸出できなくなったが、この影響はどうみるか。

杉山ディレクター ファーウェイは携帯電話では世界で2位のメーカーだが、米国の製造装置を使った半導体が使えなくなるので、最先端のスマホを事実上作れなくなり、これは同社にとって厳しい制約になる。米国は中国を敵視する政策を強めており、トランプ大統領が11月の大統領選挙で再選されると、この流れはさらに強まる可能性があり、米中対立激化のリスクが高まる。

 一方、日系企業への影響は、ファーウェイ向けスマホおよび通信基地局、データセンター向けサーバーに製品供給しているソニー(イメージセンサー)、村田製作所、TDK、太陽誘電(電子部品)、キオクシア(NANDメモリ)への影響はそれぞれインパクトに差はあるが、影響は小さくない。


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