WEDGE REPORT

2020年6月29日

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 ロシアが米軍などアフガニスタン駐留の国際部隊兵士を殺害するため、反政府武装組織タリバンの関連組織に報奨金を提供していた疑惑で、トランプ大統領は「ロシアに何の対応もしていない」と集中砲火を浴びている。ホワイトハウスは、大統領は「知らされていなかった」と火消しに躍起だが、背景には難解な安全保障問題に耳を貸そうとしない大統領の性癖がある。

(REUTERS/AFLO)

GRUの工作、プーチンは承認していたのか

 この疑惑は6月26日付のニューヨーク・タイムズ紙が最初に特ダネとして報じ、他のメディアが後追いして大きな問題となった。同紙などによると、この情報は米情報機関がアフガンで拘束した武装勢力の戦闘員らへの尋問などで今年初めに入手した。重大視したホワイトハウスの国家安全保障会議が3月、対応策を協議した。日時は不明だが、トランプ大統領にも定期的な世界情勢報告の中で報告されたという。

 情報は極めて深刻なものだった。ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)が昨年、タリバンの関係組織のイスラム過激派や武装犯罪者集団に報奨金を提供し、米兵らを殺害させたというものだ。一部は作戦を実行し、報奨金を実際に受け取ったと見られている。昨年に戦死した米駐留軍兵士は20人いるが、いずれの攻撃にGRUが関与していたかは明らかではない。

 GRUの作戦は通常、クレムリンの承認の下で行われていると見られているが、今回の秘密作戦がプーチン大統領の指示で実行されたのか、どのレベルで承認されたものかなどは分かっていない。ロシア外務省は「今回の物語は米情報機関の知的能力の低さを示すもの」との否定声明を発表、駐米ロシア大使館も「フェイク」と反発した。

 タリバンも外国の情報機関からカネをもらって米軍などに対する攻撃をしたことを強く否定、「米兵を狙ったのは昔の話であり、米国との和平に合意して以来、彼らの命は保証されている」と強調した。だが、ロシアやタリバンの否定にもかかわらず、報奨金殺害疑惑は消えていない。米国は国際部隊に参加している英国とも情報共有し、さらに分析を進めている。

 GRUの秘密作戦が事実なら、狙いは何なのか。2018年にシリアで、米軍の攻撃でロシア人傭兵が多数死亡したことに対する報復だとする説や、米軍をアフガンの泥沼から抜け出せなくするためとの見方が出ているが、ロシアの動機としてはいずれも弱い。米軍の撤退が、トランプ大統領の再選のために必要な既定路線だとすれば、米軍撤退後の「力の空白」をロシアが埋めるための布石ではないか、という見方は合理的だ。

 GRUは正式には「ユニット29155」と呼ばれる特殊作戦工作組織。2018年3月、英国で元GRUの隊員の毒殺を実行し、2016年にはモンテネグロで起きたクーデター未遂事件の背後に介在していたとされる。前回の米大統領選ではGRUのサイバー工作員が民主党本部のコンピューターをハッキングし、トランプ氏を勝たせようとした疑いがもたれている。

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