民主党の大統領候補に内定したバイデン前副大統領が現職の「トランプ・ペンス」コンビに対抗する副大統領候補の選定作業を加速、黒人暴行死事件で全米に高まる抗議デモを背景に、候補は黒人女性4人に絞られたようだ。こうした中、南部アトランタでは6月12日、今度は黒人が白人警官に射殺される事件が発生、人種差別問題があらためて選挙の最重要争点の一つに浮上した。
1期で引退の可能性?
副大統領候補は選挙を戦う上で重要な顔だ。特に今回はバイデン氏が当選した場合、4年後の再選時には81歳という高齢になることから、2期目を求めない可能性が指摘されている。ワシントン・ポスト紙によると、一部の民主党員はバイデン氏が再選に出馬しなければ、4年後には副大統領にチャンスが回ってくるのではないか、と考えているという。
つまりは通常、大統領の任期(2期8年)が終わるのをじっと待つ副大統領に、その半分の期間で大統領に上れる機会がめぐってくることになる。「次の次」の大統領を選ぶという見方もできることになり、今度の副大統領候補の選定がいかに重要であるかが分かる。
それはともかく、いったん、副大統領候補が決まれば、トランプ大統領とペンス副大統領に対抗する民主党の「チケット(コンビ)」として、あらゆる場で国民に売り込むことになる。選定は大統領候補の「弱い部分」を補強して、選挙に有利になる人物を優先するのが通例だ。
トランプ氏がペンス副大統領を選んだのは、激戦地帯である中西部インディアナ州の知事を務め、下院議員としても中西部地域に地盤があること、敬虔な保守派キリスト教徒であることから有力な宗教勢力の支持を当てにできるなど、同氏の弱点を補う政治家だったからだ。ペンス氏が共和党主流派と近く、アウトサイダーのトランプ氏との橋渡し役を期待した面も大きい。
バイデン氏の場合はどうか。自身がオバマ大統領の副大統領候補に選ばれたのは、黒人のオバマ氏が白人のバイデン氏を相棒に据えることによって白人層の票も期待できたこと、同氏が上院議員30数年のキャリアを持ち、特に外交に精通していたこと、また比較的温厚で地味な性格から大統領に従順、と評価されたことなどが理由となった。
今回の場合、バイデン氏は早い段階で「副大統領候補には女性を選ぶ」と公約、女性票の取り込みを図った。白人で東部デラウエア州出身のバイデン氏にとって、人種的には白人以外、地域的には東部出身以外の副大統領候補の方が全米広く得票できる可能性がある。
民主党内では「多様性を反映しないチケットは失敗するだろう」(下院議員)というように、白人以外の人物を選ぶべきだとする声が多い。「女性で非白人」だと、ジェンダー、人種とも、共和党の「トランプ・ペンス」の白人コンビに多様性で対抗する形となる。
こうした中、全米に広がる黒人差別撤廃運動や抗議デモの高まりで、バイデン氏周辺でも黒人を副大統領候補に推す声が強まった。バイデン氏自身は米テレビに対し、副大統領選びが抗議デモに影響されることはないとし、「自らの主張と相性の良い人物を重視する」との考えを明らかにしている。