WEDGE REPORT

2020年6月3日

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暴動に襲われたセントジョンズ教会を訪問したトランプ大統領(AP/AFLO)

 米中西部ミネアポリスで黒人が白人警官に殺された暴行事件に端を発した抗議デモは6月2日までに全米に拡大、各地で警官隊と衝突した。トランプ大統領はデモの暴動を「国内テロ」として力による鎮圧の姿勢を強め、軍投入を警告した。対して大統領選を争う民主党のバイデン前副大統領は「憎悪の炎を煽っている」と大統領を厳しく非難、人種問題が選挙の争点に一気に浮上した。

ANTIFAをテロ組織に指名

 抗議行動はほぼ全州で発生、140に上る都市でデモ隊と警官隊が衝突、5000人以上が拘束され、5人が死亡した。夜間外出禁止令も20都市に及び、動員された州兵は5000人を超えた。騒乱の規模は1968年、公民権運動の指導者だったマーチン・ルーサー・キング牧師が暗殺された時以来の規模となった。

 大統領は連日の抗議デモについて「黒人への人種差別が事件の背景にある」という本質に関してはあまり関心を示さず、また言及もしない。もっぱら略奪などの不法行為に焦点を当て、「法と秩序の回復」を強調。当初からデモ参加者を“悪党”と呼び、特に極左集団として非難する「ANTIFA」(反ファシスト)を首謀者と断じ、「テロ組織に指定する」と表明した。

 「ANTIFA」とはどのような集団なのか。「ANTIFA」は過激な左派の運動だが、特定の組織というよりも、個人や左派組織の緩やかな連携グループだ。極右やネオナチ、白人至上主義者などの思想に反対し、メンバーたちは黒い服装をして集合する。女性も多い。

 2017年にバージニア州シャーロッツビルで起きた白人至上主義者と反対派の衝突事件の際に登場し、名前を知られるようになった。大統領はテロ組織に指定するとしたが、国内法には法的根拠がなく、そもそもテロ組織指定は困難だとの見方が一般的だ。米紙によると、「ANTIFA」の支持者は各都市に5人から15人程度、と少ない。

 トランプ大統領が「ANTIFA」を首謀者にしたいのは「左派による暴動」としてリベラルな民主党と結び付け、自らを「これに立ちはだかる強い指導者」であることを誇示し、選挙戦を優位に運びたいとの思惑がある。最新の世論調査でも大統領はバイデン氏に10ポイントも差を付けられるなど劣勢にあることが背景にあるだろう。しかし、ミネソタ州知事(民主党)は暴動を引き起こしたのが左派ではなく、白人至上主義者や麻薬組織の疑いがあることを示唆している。

軍の投入も辞さずと警告

 大統領は6月1日の全米知事らとの緊急会議で、デモ取り締まりのため州兵の動員を要求、慎重な知事に対しては「弱腰」と罵倒し、動員を拒否するなら、連邦軍を投入すると迫った。実際に軍が投入されれば、1992年のロサンゼルス暴動以来の異常事態となる。

 大統領はこの後、ホワイトハウス周辺のデモ隊を警官隊に催涙弾を発砲させて排除し、側近らを引き連れて徒歩で数分のセントジョンズ教会に行き、聖書を片手に記念撮影した。有力支持基盤のキリスト教福音派にアピールするのが狙いだったと見られている。

 米紙などによると、トランプ大統領は「国民融和を訴えるべきだ」との側近らの助言を退け、デモ隊を挑発するような言動を重ねている。こうした大統領に対し、民主党の知事らは「対立と分断を煽るのではなく、平静になるよう国民に呼び掛けるよう」求めている。だが、大統領は一切、耳を貸そうとはしていない。

 それどころか、大統領はバイデン氏と暴動を結び付けようとさえしている。大統領は先月末、バイデン氏の選対本部があるフィラデルフィアでも暴動が起きたことに言及、「これが“寝ぼけたジョー”に有権者が望んでいることか。世界は注視し、ジョーを嘲笑している」などとツイートした。

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