2024年12月22日(日)

WEDGE REPORT

2020年4月30日

(REUTERS/AFLO)

 世界最悪のコロナ禍に苦しむトランプ米大統領の苛立ちは極限にまで達しているようだ。国難に対して陣頭指揮を執っているのに、自分が期待したように世論やメディアが評価してくれないことが大きな理由だ。大統領は贔屓し続けてきた保守系FOXニュースをも非難。米紙は大統領が支持者とも会えず、ホワイトハウスで“ホームアローン”の隔離状態、と伝えている。

会見の3分の1は政敵非難

 ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどによると、コロナウイルス感染拡大への初動対応の遅れを批判されていた大統領は3月12日、大統領執務室から欧州からの入国禁止を発表したが、メディアの評判は悪かった。このため大統領は自ら記者会見を主催することを決め、同16日からほぼ連日、記者団の前に立った。

 主要メディアを「フェイクニュース」と罵倒してきた大統領は元々、嫌な質問を受けなければならない記者会見が嫌いだ。ホワイトハウス報道官にも1年以上も定例会見を開かせず、ホワイトハウス内の車道で時折開く即興会見も、言いたいことを一方的にしゃべりまくる独演会がほとんどだった。

 こうした大統領が会見を開くようになったのは、コロナウイルスまん延で民主党などの政敵を徹底的にこき下ろす遊説の政治集会ができなくなったことから、その代替手段とするためだ。ワシントン・ポストによると、大統領は3月16日から4月26日までの間に35回の会見を開き、28時間もしゃべった。

 しかし、発言はコロナウイルス対策や医療情報ばかりではない。政敵やメディアを非難したり、自らの自慢話に終始したりすることも多い。例えば、4月6日からの3週間で言えば、発言の3分の1は誰かを攻撃することに費やした上、4分の1は虚偽かミスリードするような内容だったという。民主党の大統領候補に事実上確定しているバイデン前副大統領を「家の地下室で眠ってるようなヤツ」と言うのは常とう句だ。

 大統領は記者会見の前にセットされているコロナウイルス対策会議にはほとんど出席したことがない。会議や複雑な説明を受けることが苦手な大統領は事実関係を理解しないまま会見に臨み、同席したファウチ米アレルギー感染症研究所長ら医療専門家がのけぞるような発言を繰り返してしまう。そのいい例がウイルスの治療のため「消毒薬を体内注射したらどうか」などという提案だ。

正午に大統領執務室に“出勤”

 こうした不用意発言もあり、大統領の期待に反して支持率は伸び悩み、再選に死活的に重要な中西部ミシガンなどの接戦州でバイデン氏に後れを取っている。大統領は毎日、早朝5時ごろから深夜までテレビ各局のチャンネルを梯子し、自分の会見の出来栄えに対する評価をチェックするのが日課だ。だが、評判は総じて芳しくない。テレビチェックに時間を取られ、大統領執務室に入るのは正午近くになることもしばしばだ。

 4月26日のツイートでは、自分寄りの報道を称賛してきた保守系のFOXニュースの著名な司会者を「野党の言いなり」と非難し、他に見るべきテレビ局がないか探している、と不満をぶちまけた。大統領のこうしたイライラは支持者の前で喝采を受ける遊説や大好きなゴルフにも出掛けられず、ホワイトハウスに隔離されていることにも原因がある。そのせいか、大統領はこのところ、ずっと不機嫌な状態が続き、友人たちとの電話も数分で終わるという。

 こうした大統領にとって同28日、新たに手痛い報道が伝えられた。ワシントン・ポストによると、米情報機関は国家安全保障問題担当の補佐官が毎朝、大統領に説明する世界の情勢報告の中で、1月から2月にかけて十数回に渡り、中国・武漢で謎のウイルスがまん延していることを警告した。

 報告は中国が死者数などの感染状況を隠ぺいし、重大な政治的、経済的な問題に発展する恐れがあるとの見通しも盛り込んでいたという。しかし、大統領はこの警告を深刻に受け止めず、結果として初動対応が遅れ、感染者が100万人に迫り、死者が5万6000人にも達する最悪の状況になった。


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